【病気の知識】

虫歯

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どんな病気

 正確には齲蝕症(うしょくしょう)と呼ばれます。厚生労働省が発表する歯科疾患実態調査の報告でも日本人の8歳で50%、12歳で90%を越える人に虫歯があります。この数字は年々減少傾向にあるのですが、いまだにほとんどすべての人に虫歯があると考えて過言ではありません。

 いろいろな細菌が虫歯を引き起こすことが分かっています。もともと口の中は細菌に満ち溢れた環境です。人間の体の中で最も細菌が多く見られる場所の一つです。細菌の中で虫歯を引き起こす代表的なものは、連鎖球菌の一つであるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptcoccus Mutans)です。虫歯はこうした細菌が食べ物の中にある糖や炭水化物を発酵させ、乳酸に代表される有機酸を作り出し、歯の硬組織(エナメル質、象牙質を構成しているハイドロアパタイト)を分解して、溶かしてしまうことで進行していきます。この状態を脱灰といいます。

 健康な歯ではこの脱灰と、それを元に戻そうとする再石灰化が、バランスをとっています。虫歯が進行していくと、歯髄炎(歯の神経の病気)、根端病巣(歯の根の先の病気)を引き起こし、さらには顎にまで病気が進行していきます。

 細菌は出産直後の乳児の口の中には見られませんが、歯の崩出とともに検出されるようになります。その由来は母親からの感染です。母子間で感染の見られるのは、生後19ヶ月から31ヶ月と言われています。したがって、虫歯予防は乳児の段階で始められるべきです。その感染源は母親の口の中にあるので、まずは母親の虫歯治療の徹底と、歯を中心とする口の中のクリーニングが必要になります。その意味では虫歯予防は妊娠前から始める必要があるとも言えます。

 糖は虫歯菌が歯の表面に付着して、虫歯を進行させる際に重要な役割を果たします。虫歯菌が脱灰を起こしたり、糖や炭水化物を分解したり、乳酸を作り出すためには、虫歯菌が歯の表面に住み着くことが必要になります。虫歯菌は蔗糖(しょとう)から不溶性グルカンという物質を作り出し、バイオフィルムとして歯の表面に付着します。砂糖だけでなく他の糖分炭水化物でも同様のことが起こります。

 虫歯菌が歯の表面で活動し始めるために糖は必須です。虫歯菌が歯の表面に付着すると、脱灰と有機酸による歯の溶解が慢性的に進行していきます。甘いものを食べると虫歯になると言われるのはこのためです。近頃見られる代用甘味料は、この点で虫歯予防に有効です。

どんな症状・診断

 検診でよくC1とかC2と言われることがありますが、これは虫歯の進行の程度、いわば病状を表しています。口の中の見えている部分の表層はエナメル質という硬い部分で覆われています。その厚みは1mm弱から歯の場所によっては2mm程度の部分もあります。

 このエナメル質は、そのほとんどが無機質で痛みや温度を感じる感覚はありません。したがってこの部分が虫歯で侵されても、痛みを感じることはありません。エナメル質は人間の体の中で最も硬い組織です。この部分が侵されたのがC1です。

 そのすぐ下の内側が象牙質と呼ばれる部分です。象牙質は歯の中心にある歯髄(いわいる神経)を取り囲むようにして数mmの厚みを持ち、エナメル質とは異なり成分のほとんどは有機質で、痛みや温度も感じます。したがって虫歯がこの部分にまで届くと、初期には冷たいものにしみたり、さらに進行して歯髄付近まで及ぶと激痛が出てきます。

 この神経にまで達しない象牙質にとどまっている段階がC2です。同じC2の虫歯でもその発生した歯の場所によって見た目の広がり方には違いがあります。歯の平らな面から進行した虫歯では入り口が広くなりますが、奥歯の噛む面にできた虫歯は外から見ただけでは深い虫歯に見えなくても実際には神経にまで届くほど深く進行していることもあり、要注意です。

 虫歯の進行に伴い歯のエナメル質や象牙質といったいわいる硬組織のみでなく、歯の中心部分の歯髄にまで及んだ虫歯をC3と呼びます。この段階まで来ると、夜中も眠れないほどの痛みになることも珍しくありません。いわば、歯の神経が虫歯で侵されている状態です。よって治療としては、痛みの出ている神経を麻酔等をして除去して、神経のあった部分を消毒します。いわいる「神経の治療」とはこの段階の治療のことを指します。ところが、この痛みを我慢していると、痛みを感じなくなるようになります。

 これは虫歯が自然に治った訳でなく、さらに病状が悪化して、神経が完全に死んでしまい、感覚がなくなってしまった状態です。

 虫歯は決して自然治癒はしません。この感覚のなくなった歯髄は腐っていき、歯の根の先にある骨の一部を溶かすようになり、根端病巣と呼ばれる膿の塊を作っていきます。いわいる「歯の根の治療」とはこの根端病巣を治療することです。痛みがなくなった歯は、さらに虫歯の進行と共に崩れて行き歯の口の中に見えていた部分(歯冠部)がなくなり、根の部分しか残っていない状態になります。ここまできたらC4と呼ばれる状態で治療としては、もはや抜歯しかありません。

 以上が虫歯の分類として、従来、一般的に呼ばれてきたC1からC4の各段階です。ところが最近では、C1になる前の段階、つまり極めて初期のエナメル質の極く表層にでき始めた虫歯、初期の脱灰状態の虫歯をC0と呼ぶようになってきました。このC0の状態は、外観的には少し白く濁ったように見えるだけです。この時期に適切な処置を行うと、虫歯の進行を食い止めることも可能になっています。虫歯の治療も時と共に進化しつつあります。

どんな治療

 虫歯の治療方法は、その程度によって変わります。ほとんどの患者さんは、冷たいものがしみるようになったなど自覚症状が出現する、C2状態以上で歯科を受診されます。虫歯の進行状況による一般的な治療法は以下のようになります。

 先に述べたようにC0の段階で自覚症状が出ることはありません。したがってC0の治療は、何らかの検診等で発見された段階で始まることが多いのです。C0の虫歯の治療は、フッ化物の適切な応用で健康な歯に戻ることも可能な時期です。フッ化物の応用法に関してはさまざまな方法があるので、かかりつけ医に相談をして治療方針を決定してください。基本的にC0の治療では歯を削ることがない場合が多いのです。

 C1も自覚症状が出てこないために発見されることが遅れることが多いのですが、エナメル質に止まっている段階の齲蝕に対しては、現在ではコンポジットレジンと呼ばれる樹脂を詰めることにより、歯と同じ色の詰め物を入れることが可能です。すなわち、早い段階で治療を始めることで治療回数が少なく、かつ歯と同じ色の審美的にも違和感のない、きれいな仕上がりが得られます。大概のC1の治療では麻酔をすることさえ必要なく、かつ通院回数も少なくてすみ、快適に治療は進みます。

 これに対して、C2と診断された虫歯は、その進行の程度によって治療方法はさまざまです。すなわち、象牙質の表層近くの一部分が侵された軽度のC2から、歯の神経(歯髄)の近くまで深く進行した重度のC2までと、その範囲が大変に広い状態です。軽度のC2の虫歯ではC1と同様に、その部分だけを無麻酔で削りコンポジットレジンを詰めることも可能です。

 少し進行したC2の虫歯の治療では、大抵は麻酔を必要とします。虫歯に侵された歯の部分(象牙質)は基本的には痛みを感じないので麻酔をせずに治療を進める場合もあります。いずれにせよ、虫歯の部分を削り取り、虫歯の範囲が小さければ一般的はインレーと呼ばれる詰め物、もし虫歯が歯の全周に及ぶ広い範囲の物であればクラウンと呼ばれるかぶせ物を入れます。インレー、クラウンいずれの場合でも、削った後で歯型を取り、その歯型を使って作ります。このインレーやクラウンはC2の虫歯だけでなく、C3の虫歯治療の際にも使われます。

 インレーやクラウンの材質は健康保険で認められているのはパラジウム合金と呼ばれる金属ですので、見える歯に入れた場合には審美的には問題が生じることもあります。また、パラジウム合金は金合金や白金加金合金に比べると歯への適合性が劣り、また強度の面でも遜色があります。審美的に問題のない歯に金属を入れる場合には健康保険の適用外の自費治療になりますが、金合金や白金加金合金を入れるのが望ましいと言えます。

 従来はこうした金属系の材料でしかインレーやクラウンを作ることができませんでしたが、現在では健康保険の適応外となりますが、歯と同じ色をしたセラミックを用いることで審美的に十分な物を作ることが可能です。そのセラミックの材質にもさまざまな物があるので主治医の先生に相談をされるのがよいでしょう。

 さらに虫歯が歯の神経(歯髄)の近くまで進行していてC3に近い状態になっている場合には、その神経を残すか、除去してしまうかが問題になります。神経をとってしまうと痛みや沁みたりする感覚がなくなり、快適に感じるかもしれませんが、ところが神経を取ってしまった歯はもろくなり、将来的に歯に亀裂が入ったり、割れたりしやすくなります。このためできることなら歯の神経は必要以上にとることは避けるべきです。

 C3の虫歯の最終的な治療は、先に述べたようにインレーやクラウンを入れますが、C3では虫歯が歯の神経(歯隋)に及んでいので、まず歯の神経の治療・根の消毒が必要になります。

 C3の虫歯は、その進行の度合いにより、2つの段階に分かれることは前述した通りです。初期の段階の(と言っても大変な激痛があります)治療では痛みの原因となっている歯隋(神経)を麻酔して取ります。神経を除去した後の空洞の部分には、最終的には根管充填材という材料で神経のあった部分を封鎖します。同じC3でも既に神経の感覚のなくなってしまい、根の先に膿がたまっている状態になると、まずこの膿の部分を消毒しなければいけません。この神経の治療・根の消毒を歯内療法と呼びます。

 この歯内療法が確実に行われていないと、治療終了後に再び違和感や鈍痛を感じるようになることがあります。したがってこの歯内療法はしっかりと受ける必要がある大切なステップです。このようにC3にまで虫歯が進行していくと、治療の回数もかかります。その意味でも早い時期に、C2程度のうちに治療が始められるように定期的な検診が重要になります。

どんな予防法

 虫歯が発生する条件は、「歯があって、これに細菌・糖(食事)の条件が揃って初めて起こり、最近はこれに"時間"という要素をプラスして考える」と冒頭で述べました。

 したがって、虫歯を予防するためには、この発生条件を取り除くことが大切です。虫歯になりやすい人、なりにくい人というのは、その人の歯の虫歯に対する感受性の違いが大きく関連します。1本の歯を見ても、その歯の表面の性状、つまり奥歯の噛む面のようにでこぼこの多い部分と、前歯の表側の様に滑らかな部分とでは、虫歯になりやすさには違いがあります。これは見方を変えると、虫歯が起こるために必要なプラーク(歯垢)の付着しやすさ、あるいは歯磨きの際の磨き残しのできやすさの違いと見ることもできます。同じような理由で、歯並びの悪い人は虫歯になる確率が高くなります。また、その人の歯の性質も影響します。生まれながらにして、エナメル質の弱い人の場合は虫歯になりやすくなります。

 年齢の問題も重要です。口の中に出てきた直後の歯は齲蝕症になりやすいことが知られています。こうした歯自体の齲蝕に対する抵抗力を増すために、フッ素の使用は有効です。最も簡単なフッ素の応用は、フッ素配合の歯磨剤を使用することです。フッ化物(フッ素)の利用方法は個人によって違うのでで主治医の先生と良く相談してください。

 虫歯原因菌を減らすために有効なのは、もちろん丁寧な歯磨きです。ただし、正しく磨けている人はとても少ないのが現状です。よく言う「磨いている」と「磨けている」というのは、大きく違います。この正しく磨けていることは、虫歯のみでなく、歯周病の予防ではさらにウエイトが大きくなります。正しく磨けているかは、かかりつけの歯科医の先生に相談して歯科衛生士さんから教えていただくのが良いと思います。

 自分の口の中の齲蝕症原因菌がどのくらいいるのかを知ることも大切なことです。現在では齲蝕症原因菌の数や唾液の性質を調べ、その人の虫歯にかかりやすいかどうかを調べる齲蝕症検査システムも注目されてきています。この検査は健康保険では受けることができませんが、比較的信頼度が高いことから導入している歯科医院も増えています。

 こうした検査は、これから妊娠・出産を予定している女性の方々には特に意味があるかもしれません。すなわち、先に解説したように出産直後の新生児の口の中には虫歯菌は存在しません。この虫歯菌は母親から伝染してくるのです。したがって母親の口の中に多数の未治療の虫歯があったり、虫歯菌が多数見られる場合には、その子供も早くから虫歯になってしまうリスクが高くなってしまいます。検査を受けることで治療の参考になる場合があります。

 食事は先に述べたように、口の中で虫歯菌が増殖するのに必須のものです。しかも糖分や炭水化物で虫歯菌は育ちます。こうした物を多く含む食品の摂取量を減らすことは極めて有効です。甘いものを控えるのは、ダイエットのみでなく虫歯予防のためにも大切です。

 また、単純にその量を減らすだけでなく、飲食をする回数と時間も考えるべきことです。つまり、虫歯原因菌は人が食事をするたびにそれらを栄養源にして、酸を作り出し唾液を酸性にしてしまいます。この酸性の唾液に長時間、歯がさらされることで、脱灰が始まります。

 間食せず1日に3回の食事をきちんと取っている人の口の中では唾液が酸性に傾いている時間は短いのですが、だらだらと間食が多い人の口の中では常に酸性になっていて、その結果、歯が脱灰され始めます。すなわち虫歯ができ始めていきます。このように唾液の果たす役割も非常に重要なことが近年、明らかにされてきています。唾液の量や酸性度も検査で調べることが可能です。

 一つ一つのことを考えていくと虫歯の予防は大変に感じるかもしれませんが、最低でも年に一度はかかりつけの歯科医の先生にチェックを受けることで適切なアドバイスを得ることは容易にできます。是非痛みのない時にも歯科医院のドアを開けてください。ほとんどの人は高校生の頃に学校で検診を受けたのを最後に、大人になってから歯の検査・歯茎の検査を受けていないのが現状です。

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