監修:西郷和真/近畿大学医学部附属病院講師・神経内科
:鈴木龍太・鶴巻温泉病院 院長/脳神経外科医
外来にめまいで来られる方は大勢います。特に高齢者では多くなります。しかしよく話しを聞いてみると皆さんの言う「めまい」にいくつかの種類がある事が分かります。主に「天井がグルグル回る」「世界が沈むような感じ」「物が一方向に流れる」と訴える回転性めまい「クラクラする」「立ち眩み」「足が地に付かない」と訴える身体のふらつき感です。
回転性めまいは平衡感覚機能の障害で内耳、前庭神経、脳の中心部の橋、小脳が関与しこれらの部位に異常が起こると起こります。この原因としては血液の循環障害(椎骨脳底動脈循環不全、起立性低血圧、不整脈)、耳の炎症、中毒(アルコール、ストレプトマイシンなど)、腫瘍などがあります。有名なものはメニエール病で、これは原因不明のリンパ水腫が起こる内耳障害です。
ふらつき感は脳全体の循環不全や酸素欠乏によって起こってくるもので、脳や首の骨、筋肉(頸性めまい)の異常でも起こりますが、低血圧、貧血、過労、睡眠不足、肺の病気による酸素不足、精神的ストレスなど全身の状態が反映される場合が多いです。
めまいを訴えてきた時に他の症状があるかどうかで障害の部位が推測できます。真性めまいの場合、頭の位置でめまいが起こったり起こらなかったりするか、耳鳴り、聴力障害、眼振(物が一方向に流れる)があるかどうかが問題になります。頭を動かした時に回転性めまいがおこり、耳鳴りや難聴がない場合は良性頭位性めまいで、2〜3週間で自然になおります。真性めまいに難聴、眼振をともない時に嘔吐が見られるものはメニエール病が考えられます。一時的に良くなりますが、薬を飲んでいないとまた繰り返して、難聴も悪化します。
難聴が高度で、耳鳴り、回転性めまいがある場合は突発性難聴が考えられます。ある種の抗生物質(アミノグリコシド系)で、めまいが起こることが知られています。ふらつきや歩行障害から始まります。原因薬剤の中止が必要です。皆さんは帯状疱疹といって皮膚に水疱ができそのあとその部分が非常に痛くなる病気をご存知と思いますが、これはヘルペスというウイルスが起こす病気です。
このヘルペスが耳の前庭神経を侵すと外耳道に発疹ができ激しい耳痛がおこり、そのあとに顔面神経麻痺(痛かった耳側の顔の筋肉がゆるみ、目が閉じなくなる)をおこすラムゼイハント症候群という病気を起こします。この場合も耳鳴り、難聴、激しい真性めまいが起きます。ここまでは内耳にある迷路という三つの輪が絡み合った三半規管の部分の障害です。
それよりも脳に近い部分小脳と内耳の間に脳腫瘍ができることがあります。この腫瘍で一番多いものが聴神経鞘腫というものです。この場合聴神経の障害で耳鳴り、難聴がおこります。めまいも起こりますが動揺感が主で、また頻度も少ないものです。脳幹部(脳の中心で、生命を司っているところ)や小脳の梗塞や出血でもめまいが起こります。
脳幹部の梗塞は比較的多いもので、回転性めまい以外に手足の感覚障害、嚥下障害(飲み込む時にむせる)などを伴います。脳幹部の出血は橋(きょう)出血でめまい感があり、重症の場合は意識障害、四肢麻痺(両方の手足が動かない)、顔面神経麻痺、外転神経麻痺(病気の方の目が外へ向かない)などの症状がでます。
小脳出血は激しい真性めまいと頭痛、嘔吐で発症します。眼振も起こり、身体がふらついたり、手足が思った場所へ行かなかったりして歩けなくなります。めまいを伴う脳血管障害は重篤なことが多く、症状が比較的軽くても要注意です。脳の動脈硬化が強い人で血圧が低下したり、血液の粘度が高くなって一時的に脳の血流が減少するとめまい、悪心、物がダブって見える複視、失神がおきます。これは椎骨脳底動脈循環不全といい脳の中心部にある脳幹部への血流が低下した状態です。
急に立ち上がるとめまいが起こる場合は起立性低血圧といって自律神経の異常で立ち上がると血圧が下がり、脳に血が行かなくなって、めまいが起こるものです。この場合のめまいは回転性めまいのこともあればふらつきのこともあります。
頸性めまいといって、首の骨やその周囲の筋肉などの組織の異常でもめまいが起きます。むち打ち損傷などはその典型で、頸部交感神経が刺激されて、後頭部の痛みや肩凝り、仮性めまい、視力障害、身体のふらつきなどが起こります。この場合のめまいは頭部回転時などに発作的に起こることが多く、身体の不安定感を訴えます。
高齢者が頭を打ったあと1ヶ月くらいして、頭蓋骨と脳の間に血液の溜まった袋をつくる慢性硬膜下血腫という病気があります。この場合ふらつき感を訴えたり、歩きにくい、頭が重いなどの症状を訴えます。
めまいが起こった場合、難聴、眼振、耳鳴り、小脳症状などの随伴症状をチェックします。脳血管障害や脳腫瘍の場合もありますから、まずCTやMRIを行います。この場合はMRIの方が診断が容易です。それではっきりした病変がない場合で、回転性めまいであれば迷路性のめまい、ふらつき感であれば椎骨脳底動脈循環不全や頸性めまいを疑います。
耳鼻科では聴力検査、フレンチェル眼鏡といってレンズの分厚い眼鏡をかけた眼振の検査、耳に水や温水を入れて眼振を見るカロリックテスト、身体の重心の揺れを見る斜面台テスト、足踏み検査などを行います。聴性脳幹反応といい、耳に音を聞かせながら脳波をみる検査も行われます。
椎骨脳底動脈循環不全や脳梗塞を疑った場合はMRAや脳血管撮影を行って脳の血管を見ます。脳や脳血管の病気の場合は脳神経外科、神経内科、迷路性めまいの場合は耳鼻科にかかります。
めまいの治療はその病気によって色々分かれます。関係する科も内科、神経内科、耳鼻科、脳神経外科、整形外科と多岐にわたり、病気に合った専門の科にたどり着くまでに時間がかかってしまう可能性もあります。どの科にまずかかるかで診断法や治療法がかなり変ってしまいます。めまい外来を専門的に行っている病院もありますが多くはありません。
天井がクルクルまわる回転性めまいや難聴がある場合はまず耳鼻科で見てもらいます。もともと血圧が高い人や、めまいの時に血圧が高い場合、頭痛や身体のふらつきを伴う場合は脳血管の異常が疑われますから、脳神経外科や神経内科にかかりましょう。
回転性めまいの強い時は重曹水(メイロン)の点滴を行います。メニエール病では内耳リンパ浮腫を引くために脱水療法(グリセオールの点滴、イソバイドの経口投与)を行います。突発性難聴は発症2週間以内に治療した方が良くなります。迷路性のめまいにはステロイドを投与することもあります。めまいは一時的には改善しますが繰り返す場合が多く、めまいの薬であるATP(アデホス)、トラベルミン、メリスロン、セファドールなどを飲みつづけます。
小脳出血は進行が早く、早期に手術をしないと命に関わる場合があります。小脳梗塞も脳の腫れ(脳浮腫)が強ければ手術で圧を逃がす場合があります。脳腫瘍は手術やガンマナイフ手術を行います。脳梗塞で、発症早期であれば、血栓溶解といって血管に詰まった血栓を溶かす薬を使います。椎骨脳底動脈循環不全では血管撮影で異常がある部位に対して処置を行う場合もありますが、血液の流れをよくする薬で治療します。頸性めまいの場合は筋肉を弛緩させる薬(ミオナール、テルネリンなど)を飲みますが、首の骨の異常が原因であれば手術をする場合があります。頸性めまいや自律神経失調のめまいの場合は筋弛緩効果も持つ精神安定剤(リーゼ、デパスなど)を使用します。何れにしろ患者さんの不安を取り、ストレスで更に悪化させないように治療する必要があります。
めまいの原因は色々で、予防できないものもあります。しかしめまいの症状は心理的ストレスで悪化したり、改善したりしますので、自分の状態を良く把握し、めまいがおきても軽くて済むように対応できるようにすべきでしょう。
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