心臓から血液を送り出す血管を動脈、心臓に血液を返す血管を静脈といいます。動脈は、酸素や栄養分を全身のいろいろな臓器に運ぶ重要な役割をしています。動脈硬化症というのは、この動脈が老化現象を起こして柔軟性がなくなり「硬く」なることです。ただ硬くなるだけであれば、あまり問題はないのですが、同時に動脈が細くなってつまったり、あるいはもろくなって破れたりします。そうなると、大事な臓器に血液を送る事ができなくなり、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血、大動脈瘤の破裂など重篤な病気が発症します。
「人間は血管と共に老いる」とも言われており、動脈硬化症によってひき起こされる病気が、わが国の死因の上位を占めています。動脈硬化は、急に進展するものではなく、体質や生活習慣の積み重ねなどにより、幼時期から徐々に始まっています。しかし、動脈がかなり細くなって血流が障害されるまでは、自覚症状はでません。したがって、自覚症状がないからといって安心はできません。
動脈硬化は年齢に伴って進行するのですが、特に高脂血症、高血圧症、糖尿病などの病気を持っている人やタバコを吸う人では、動脈硬化の進行が速くなり、若年で心臓病や脳血管の病気を発症し、寿命も短くなります。
動脈硬化が進行して、血流が極端に減少したり、血管が裂けたりすると、自覚症状が現れます。自覚症状は、40歳ごろから出現するようになり、細くなった動脈の部位によっていろいろな症状がでます。代表的な病気と自覚症状を表に示します。
血管の部位:病名→自覚症状
心臓:狭心症、心筋梗塞→運動時などに胸が圧迫される。
脳:脳梗塞、脳出血→手足の麻痺やしびれ、めまい、言語障害
下肢:閉塞性動脈硬化症→歩行時に下肢が痛くなる。下肢が冷たい。
大動脈:大動脈瘤、大動脈解離→胸痛や腹痛
全身の動脈硬化を、正確に測定する方法はありません。自覚症状が出てきた場合には、その部分を重点的に検査します。どこかに自覚症状が出るほど、動脈硬化が進行した人では、それ以外の部位の動脈硬化もかなり進行している可能性があります。
①運動負荷心電図:階段の昇り降りなどの運動を行ない、心電図の変化や自覚症状を見て、心臓の動脈(冠動脈)の狭窄の有無を診断する。
②超音波検査:超音波の反射を利用して、頸部や下肢など体表に近い動脈を観察する。
③CT検査:X線で得られた情報を、コンピューターで処理することにより、身体の断面の画像を作る。太い血管では、CTにより血管の状態がわかる。また、脳梗塞や脳出血など、動脈硬化の結果として起こった病気の診断にも用いられる。
④MRI検査:磁気を使用して、体内のいろいろな部位の画像を作る。一般にCTより細い動脈まで、診断することができる。
⑤血管造影:大腿部や腕の動脈から、細い管(カテーテル)を挿入して、その先端を目的の血管の部位まで進める。その管を通して造影剤を注入し、血管を写して動脈の状態を判定する。心臓の動脈など細かい動脈まで正確に診断できるが、検査に伴う危険性や身体の負担がある。
すでに進行してしまった動脈硬化そのものを治療することは困難であり、予防が最も重要です。しかし、自覚症状が出るほど動脈硬化が進行した場合には、次に述べるような治療が行なわれます。
①薬物療法:血管を拡張して血流を改善したり、血液を固まりにくくして血管の閉塞を予防します。狭心症や心筋梗塞などでは、心臓の負担を軽減する薬が用いられ、脳血管障害では、症状を改善する薬などが用いられます。
②経皮的動脈形成術:大腿や腕の血管から、細い管(カテーテル)を挿入し、それを通して、小さな風船や金属性のリングを心臓や下肢の動脈まで持って行き、内側から動脈を広げます。脳血管では、あまり使用されません。
③外科的手術:詰まりそうになったり、破れそうになった動脈を人工血管に置き換えたり、他の部位の血管を利用して、別の血液の通り道(バイパス)を作ったりします。
動脈硬化は、幼児期から徐々に進行します。自覚症状のない若い時から動脈硬化の予防をすることは、とても重要です。高脂血症、高血圧症、糖尿病、肥満、喫煙などは、動脈硬化の「危険因子」と呼ばれています。これらの危険因子をなるべく減らす事が、動脈硬化の予防につながります。日頃から、健康診断などにより、危険因子の有無を知る事が重要であり、また良い生活習慣を身につけることが必要です。
①高脂血症の治療:高脂血症、特にコレステロールは動脈硬化を進行させる最も重要な原因です。他の危険因子がなく、動脈硬化がまだ進行していない人の場合、血清コレステロール値は240mg/dl未満が目標ですが、すでに心臓の血管が細くなっている人では、血清コレステロール値を180mg/dl未満まで下げることが必要です。
②高血圧の治療:血圧の高い人では、動脈硬化の進行が速くなります。血圧を正常にすることにより、動脈硬化を予防することができます。塩分制限(1日7g以下)などの食事療法や、薬物療法により、血圧を140/90mmHg以下に維持することが重要です。
③糖尿病の治療:糖尿病のある人では、食事療法や薬物療法により、血糖を正常に近づけなくてはなりません。定期的に検査を行ない、空腹時血糖は110mg/dl以下、HbA1cは6%以下を目標に治療します。
④肥満の防止:肥満を改善することは動脈硬化の予防にとても重要です。最も長生きのできる体重を標準体重としています。下の式にあなたの身長を入れて、計算してみてください。求められた値が、あなたの標準体重です。
標準体重(kg)=身長(メートル)×身長(メートル)×22
もし、あなたの現在の体重が標準体重を超えるようであれば、標準体重を目指して減量してください。そのためには、運動量が日常生活程度の人で、1日の摂取カロリーを標準体重×25ぐらいに制限する事が必要です。
1日の摂取カロリー(kcal)=標準体重(kg)×25
肉体労働など、かなりの運動をする人では、1日の摂取カロリーは標準体重×30が目安です。
⑤禁煙:タバコを吸うと、肺癌などの危険が増大する以外に、動脈硬化も進行します。喫煙者の周りにいる人にも悪影響がありますので、禁煙はとても重要です。最近では、禁煙を補助するためのニコチンテープやニコチンガムが販売されており、インターネットを利用した禁煙プログラム※などもあります。
⑥アルコール:適量のアルコール(1日に日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本程度)は、動脈硬化を抑制すると言われています。ただし、過剰のアルコールは血圧を上昇させるなど動脈硬化に悪影響を及ぼし、肝臓病など他の疾患をひき起こします。
⑦運動:運動療法は、動脈硬化の予防にとても効果があります。万歩計を利用した早足歩行は、最も手軽に行なえる運動療法です。1日1万歩を目標にして下さい。そのほか、サイクリングや水泳などの有酸素運動がお勧めです。ただし、心臓などに病気がある人は、必ず医師と相談してから行ってください。
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