【病気の知識】

脳腫瘍3(脳実質外腫瘍・小児の脳腫瘍)

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監修:高橋伸明/福岡記念クリニック院長・脳神経外科医
  :鈴木龍太・鶴巻温泉病院 院長/脳神経外科医


 髄膜腫は良性でゆっくり発育し、かなり大きくならないと症状は出ず、脳腫瘍のうち22.2%を占める最も頻度の高い腫瘍です。下垂体腺腫も頻度が高く14.9%を占め、全く正常の人を調べると数%で小さな症状を出さない下垂体腺腫が見つかります。聴神経鞘腫を代表とする神経鞘腫は8.8%を占め、良性で比較的多く認められます。

髄膜腫:どんな病気

 脳は髄膜という3層の膜で覆われています。この膜の細胞からできる腫瘍が髄膜腫です。ですから髄膜腫は、脳の中にできるのではなく、脳の外で脳を圧迫するように成長します。ほとんどの場合は良性ですが、できた場所によっては摘出しにくいものもあります。髄膜腫は良性でゆっくり発育しますから、かなり大きくならないと症状はでてきません。全く無症状で、頭部外傷などで偶然CT検査をするとびっくりするぐらい大きな髄膜腫が見つかることがあります。

 脳腫瘍のうち22.2%を占める最も頻度の高い腫瘍で、40〜60歳代の成人に発症することが多く、最近は脳ドックの普及により無症状で偶然みつかることも多くなりました。女性に多い脳腫瘍で、女性ホルモンとの関係も認められています。時に多発することがあります。

髄膜腫:どんな症状

 髄膜腫は、良性で数年から数十年かけて発育します。脳は出血のように急に変化が起こるとすぐに症状が出ますが、ゆっくりした変化に対しては順応するので、症状はなかなか出ません。髄膜腫は脳の周りのいろいろなところにできますが、大脳半球の表面の部分にできるものが一番多く、この場合の症状は、痙攣発作・片麻痺・頭痛などです。稀に急速に大きくなるものも存在し、これらは悪性髄膜腫といわれ、転移することもあります。他に脳の底面に近い部分にできるものもあり、この場合、脳から出ている神経を巻き込み、その神経の症状が出ます。多いものでは、視力低下・嗅覚脱失(匂いが分からない)・複視(ものが二重に見える)・顔面感覚鈍磨(顔の皮が一枚厚くなったような感覚)などがあります。前頭葉の部分の髄膜腫が大きくなると、性格変化(深刻なときでも幸せそうにしている多幸症、自発性の欠如など)や認知症が起こることがあります。

髄膜腫:どんな診断・検査

 他の脳腫瘍と同様にCTやMRI検査で分かります。小さな物では分かりにくいので、造影CTや造影MRIが必要です。脳腫瘍は眼の症状で発症することが多いので、眼科ではっきり分からないものは脳の検査を行ってみることが必要です。髄膜腫と診断できた場合は、脳血管造影の検査を行なって、どの動脈が腫瘍に栄養を運んでいるかを確認します。手術を前提として、同時に栄養血管の塞栓を行います。

髄膜腫:どんな治療法

 良性の腫瘍ですから、手術で全摘(全部取ること)することが最良です。しかし、肉眼的に全摘しても10%前後の例で再発します。ですから、髄膜腫の患者さんは手術で取った後も定期的に検査が必要になります。痙攣で発症した人は、脳腫瘍がなくなっても脳は長期にわたり圧迫されていましたので、抗てんかん剤は当分飲みつづけます。また、頭蓋の底のほうや深い場所にできることも多く、手術で完全に取ることができないものが30%程度あります。取り残した腫瘍に対しては、大きくならなければそのままでいいのですが、場合によってはガンマナイフで治療することがあります。この場合は、腫瘍がなくなるというよりは、腫瘍の成長を止めると言った考え方になります。稀に悪性の髄膜腫もありますし、非常に血管が多くて手術で大出血する場合もあります。

下垂体腺腫:どんな病気

 大脳の真中にぶら下がるようにして、脳下垂体というものがあります。ここでは成長ホルモン・乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)・甲状腺刺激ホルモン・性腺刺激ホルモン・副腎皮質刺激ホルモン・抗利尿ホルモンなど、いろいろなホルモンを出しています。この部分にできた良性の腫瘍が下垂体腺腫です。

 これは大きく2種類に分けられます。ホルモンを異常に分泌するホルモン分泌性腺腫と、ホルモンを出さない非機能性腺腫です。ホルモンを出すものは症状が出やすいので、小さいうちに見つかりますが、非機能性腺腫は症状がなく、かなり大きくなって眼の神経(視神経)を下から圧迫するようになり、視野障害や視力障害が起こって始めて分かることが多いです。下垂体腺腫は腫瘍の中でも頻度の高いもので、全く正常な人を調べると数%で小さな症状を出さない下垂体腺腫が見つかります。症状さえなければ放置していて良いものだと言えます。

下垂体腺腫:どんな症状

 ホルモン分泌性腺腫は、分泌するホルモンによって特徴的な症状が出ます。最も多いものはプロラクチン産生腺腫で、女性では生理が止まり(無月経)、出産していないのにおっぱいを押すと乳汁が出てきます(乳汁分泌)。正常なプロラクチンの値は20〜25ng/ml以下ですが、プロラクチン産生腺腫の場合は100ng/ml以上になります。血圧の薬や胃潰瘍の薬・精神科で使う薬でもプロラクチンが高くなることがありますが、100ng/ml以下の場合がほとんどです。男性ではほとんど症状がないので、大きくなるまで分からないことがほとんどです。

 次に多いのが、成長ホルモン産生腺腫です。成長ホルモンが異常に産生されると、子供では巨人症(異常な高身長、額やあごの出た、唇の厚い特有の顔貌)になり、大人では先端巨大症(末端肥大症、手や足の肉が分厚くなる、額やあごが出る、唇や舌が分厚くなる)となります。また手に汗をかきやすかったり、皮膚がべとべとしていたり、糖尿病にもなり易いのが特徴です。逆に成長ホルモンが出ないと小人症となります。

 成長ホルモンは夜間寝付いた頃に多く出ます。身長の低い子供では病院に1泊して夜間の成長ホルモンを測定し、不足している場合は成長ホルモンを投与して成長を促進させることができます。副腎皮質刺激ホルモンを異常に産生する腺腫はでは、副腎を刺激して副腎皮質ホルモン(いわゆるステロイド)を大量に放出し特有の症状を示すクッシング病になります。クッシング病では、身体の中心部の肥満・満月様顔貌・妊娠線のような皮膚伸展線条・にきび・多毛と言った症状が出ます。また、高血圧や糖尿病を合併します。

 一方、非機能性腺腫は、大きくなるまで症状が出ません。大きくなると下垂体の上にある視神経を圧迫して、両眼の外側が見えなくなる両耳側半盲になります。さらに圧迫すると眼鏡をかけても視力がでない状態になります。また、大きくなると本来の下垂体の機能が低下して、下垂体機能低下症となります。この場合、皮膚が乾燥しレモン色になり、体毛が薄くなります。女性では無月経、男性では勃起不能や性欲低下をきたします。

 いままでのホルモンは、下垂体前葉といって前のほうから分泌されるものでしたが、抗利尿ホルモンは下垂体の後葉といい後ろのほうから分泌されます。抗利尿ホルモンは作られる場所が下垂体ではなく、その上の視床下部なので、下垂体腺腫で抗利尿ホルモンが異常に出てしまうことはありません。逆に下垂体の変化で分泌低下となります。このホルモンの分泌低下で尿崩症が起こります。尿崩症は、尿がコントロールできずに大量に作られてしまう病気で、1日に10リットル以上の尿が出ることもあります。尿崩症は下垂体腺腫の症状ではありませんが、下垂体腺腫の手術をした後や下垂体近傍の別の脳腫瘍の時に起こるものです。

下垂体腺腫:どんな診断・検査

 いま挙げたような症状がはっきりすれば、病院へ行くと思います。しかし、プロラクチン産生腺腫の場合は産婦人科、眼の症状の場合は眼科、クッシング病の場合は内科にまず行くと思います。そこで疑わしい場合は脳神経外科か内分泌内科に紹介されることになりますが、結局、分からない場合もあります。ですから、今あげたような症状の場合は、直接、脳神経外科か内分泌内科へ行ってください。

 ホルモンの異常から下垂体腺腫があることは診断できます。大部分はMRI検査で分かりますが、小さなものでは分からないこともあります。特にクッシング病の診断は難しく、脳の静脈(海綿静脈洞)から採血をして副腎皮質刺激ホルモンを調べることもあります。視野障害や末端巨大症の場合は、自分で気がづかないこともあります。外来で別の症状で来た患者さんの顔を見て末端巨大症を疑ってMRIの検査をしたら下垂体腺腫があったこともあります。成長ホルモン産生腺腫やクッシング病では、全身の老化が進みますから、きちんと治療することが必要です。

下垂体腺腫:どんな治療法

 手術療法と内服療法があります。手術は基本的に経鼻経蝶形骨洞手術といって、鼻の穴から手術をします。非常に大きい場合や経鼻経蝶形骨洞手術で取れないような腺腫には、頭蓋骨を開ける開頭手術を行うことがあります。

 治療は腺腫の種類によって変ります。プロラクチン産生腺腫に対してはブロモクリプチン(パーロデル)・カベルゴリン(カバサール)・テルグリド(テルロン)・オクトレオチド(サンドスタチン)・ベグビソマント(ソマバート)という薬がよく効きます。これらの薬で75%のプロラクチン産生腺腫がコントロールできますが、薬をやめられないのと消化器系の副作用で飲めない人がいることが問題です。

 プロラクチン産生腺腫は、若い女性で妊娠を希望している場合に一番問題になります。薬の治療でも妊娠は可能となりますが、妊娠中に腺腫が急に大きくなることがあります。手術でも小さなプロラクチン産生腺腫の90%が妊娠可能となります。どちらにするかは、その症例によると思います。

 大きくなって視力が低下しているような場合は、手術を行うことが多くなります。成長ホルモン産生腺腫とクッシング病に関しては、手術が基本になります。手術で完全にホルモンが正常化しない場合は、ガンマナイフ治療を考慮します。非機能性腺腫は手術が基本になりますが、腫瘍が小さい場合や手術後残存した腫瘍に対してガンマナイフ治療を行います。

聴神経鞘腫:どんな病気

 脳と耳の間は聴神経で連絡されています。聴神経は、聴力に関係する蝸牛神経と、平衡感覚に関係する前庭神経からなります。この前庭神経にできる良性腫瘍が聴神経鞘腫です(前庭神経鞘腫とも言います)。30代から見られ、女性にやや多い傾向があります。頻度は少ないですが、聴神経以外にも三叉神経などいろいろな神経にできることがあります。また、反対側にもできたり、他の神経にも腫瘍ができたり、家族内で遺伝的に発生する場合があります。この場合は「神経線維腫症」と呼ばれる病気が強く疑われます。比較的若年で聴神経腫瘍の診断がなされた場合は、神経線維腫症の可能性も考えて、脊髄などの検査も追加することが望ましいと思われます。なお、神経線維腫症が強く疑われた場合は、念のためにご家族の方にも検査を受けられることをおすすめいたします。

聴神経鞘腫:どんな症状

 この病気になると、耳が聞こえにくくなり、特に電話の声が聞き取りにくくなります。耳鳴りも多く見られます。腫瘍が大きくなると、顔面神経麻痺と言って、片方の瞼が閉じにくくなったり、口が歪んで食べ物がかみにくくなったり、よだれが出るようになったりします。顔の痺れも見られます。さらに大きくなると、ふらつきや手の震えなどの小脳の症状が出て、場合によっては水頭症による頭蓋内圧亢進症状をきたします。

聴神経鞘腫:どんな診断・検査

 大きなものはCT検査で分かりますが、小さなものはMRI検査が必要です。聴神経腫瘍が疑われたら造影MRI検査が必要です。

聴神経鞘腫:どんな治療法

 良性腫瘍なので全摘することが理想です。手術では小さな腫瘍では聴力を温存することができる場合がありますが、大きな腫瘍で既に聴力が低下しているものでは聴力は戻りません。また大きな腫瘍を手術した場合30%程度で顔面神経麻痺が起こっています。最近では3cm以下の小さな聴神経鞘腫は、ガンマナイフで治療することが多くなってきました。ガンマナイフでは、腫瘍が小さくなったもの30〜40%、増大が止まったもの50〜60%で、全体で90〜95%が有効です。1年後に50%ぐらいの人で有効な聴力が温存でき、顔面神経麻痺は数%で起こるだけです。ガンマナイフ治療は3cm以下の腫瘍に対して良い適応ですから早期発見が肝要です。

小児の脳腫瘍:どんな病気

 子供にできる脳腫瘍は、白血病に次いで多く見られる腫瘍です。子供の癌患者さんの5人に1人で、子供の脳腫瘍は珍しい病気ではないことがわかります。いままで述べた成人の脳腫瘍の90%は大脳に発生しますが、子供の脳腫瘍は小脳や脳幹など脳の中心部にできるものが多く、水頭症で発症する場合が多くあります。子供の脳腫瘍は、星細胞腫(20%)・髄芽腫(12%)・胚細胞腫(9.5%)・頭蓋咽頭腫(9%)・上衣腫(4.5%)などですが、詳しいことはここでは述べません。

小児の脳腫瘍:どんな症状

 幼児は頭蓋骨の縫合が強くなく、頭蓋内圧が高くなっても頭蓋が大きくなって症状が出にくい場合があります。また子供は自分の症状を訴えられませんから、その点でも診断が難しくなります。症状は、行動異常・発育発達遅延・嘔吐が最も多いもので、頭囲拡大と食欲低下も見られます。眼の動きがおかしい・視力が低下する・異常に水分を欲しがり尿が多い(尿崩症)・痙攣発作を起こすなどがあります。また、小さい子供に生理が始まったり陰毛が生えたりする思春期早発症のこともあります。このような症状がみられた場合は、速やかにかかりつけ医に相談することをお勧めします。

小児の脳腫瘍:どんな診断・検査

 乳幼児の場合は、頭のてっぺんに大泉門と言って骨のない部分があります。起きている時は少しへこんでいるのが普通ですが、泣いたり力んだりするとプクっと膨れて緊張します。頭蓋内圧亢進があると絶えず膨れた状態になります。また健康診断で頭囲を測定すると思いますが、頭囲が標準よりずれて大きくなってきた場合は要注意です。診断にはCTやMRI検査が必要です。幼児の場合は動いてしまうので、検査が行いにくくどうしても必要な場合は眠る薬を飲ませて検査を行います。検査を簡単に行えないために診断が遅れることがあります。

小児の脳腫瘍:どんな治療法

 良性星細胞腫のように手術で全摘すれば治るものもありますが、多くは手術で摘出後、放射線療法・場合によっては化学療法を行います。水頭症の場合は緊急に脳から髄液を外に出す脳室穿刺を行っておいて、その後に検査をしてから手術を行う場合もあります。2歳以下の小児に通常の放射線治療を行うと将来知能低下が起こることが多いので、放射線治療の代わりに化学療法を優先することもあります。ガンマナイフ治療はピンポイントで脳腫瘍を狙え、1回の照射ですみますので有効な放射線治療と思います。また、松果体部腫瘍のような脳深部で手術の困難な場所の脳腫瘍は、手術による病理組織診断をせず最初からガンマナイフ治療を行うこともあります。

 子供の脳腫瘍は、発育期の脳に重大な影響を与えます。また、脳腫瘍を治すための治療も脳が発育過程にあるため、重大な影響を与えかねません。従って、子供の脳腫瘍の治療には生命予後のみならず、機能的予後についての十分な配慮が必要です。

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