健診レベルの血液データとAIで認知症の将来リスクが予測可能に

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認知症リスクは予想できるという酒谷薫・東京大学特任研究員

 2021年6月、米国の食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー型認知症治療薬の製造販売を承認したことが大きく報じられた。世界で初めてのアルツハイマー病の原因物質をターゲットにした治療薬が誕生したことになる。

 しかし、薬の有効性については専門家の間でも見方が分かれ、効果が認められないとして2019年にはいったんこの治療薬の研究が中止されている。その後、データの再解析により有効性が確認されたとして申請され今回の承認劇だ。FDAは「仮に臨床の効果の確認がなされなかった場合、新薬の承認を取り消す可能性がある」とのコメントも出している。

発症予防が主流となっている認知症対策

「認知症の中で最も大きな割合を占めるアルツハイマー病では、その原因としてアミロイドβ仮説が主流ですが、決定的な治療薬はできていません。現時点では発症の予防や発症を遅らせるなどの考え方が主流となっていると思います」
こう語るのは「AICOG」と呼ばれる認知症リスク予測サービスを開発した東京大学大学院新領域創成科学研究科の酒谷薫特任研究員。

「2017年のアルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2017)でランセット認知症予防、介入、ケアに関する国際委員会(Lancet International Commission on Dementia Prevention, Intervention and Care)が提出したリポートでは、認知症症例の3分の1以上が、予防できる可能性があると報告しています。厚生労働省の認知症対策の大綱(2019年)でも、認知症予防は政策の大きな柱です。この場合の予防とは発症を抑えたりや進行を遅らせることであり、そのためには早期発見は非常に重要となってきます」と酒谷研究員。

 酒谷研究員のグループが開発した「AICOG」は被験者の年齢に関する情報や一般血液検査の結果からAIに用いられる深層学習(ディープラーニング)のアルゴリズムを使い、それぞれの認知症判定得点を算出し、将来の認知症のリスクを推定するものだ。

もっとシンプルで客観的な認知症のスクリーニング手法を

 一般的に認知症のスクリーニング検査には「ミニメンタルステート検査」(MMSE)や「長谷川式認知症簡易評価スケール」などの問診形式の判定方法が使われる。しかし、こうした判定法は医師と患者が対面で行うために手間と時間がかかり、被験者の協力が必要となる主観的検査法である。さらには視覚聴覚障害などの障害がある場合の検査が難しくなる。

 一方、認知症の診断精度は高いMRI や PET などの画像診断法は大規模な施設を要し検査時間や費用の面からもスクリーニング検査に不適である。また、認知症の原因物質とされるアミロイドβなどに関連するバイオマーカーを検出する技術も一般化するまでは時間を要するという。

「私たちは、新しいスクリーニング方法の開発に向け全身状態の異常が認知機能に与える影響に着目しました。このところ糖尿病、脂質代謝異常、高血圧などの生活習慣病に加えて 栄養障害、貧血、肝機能障害、腎機能障害などの全身状態の異常が認知機能を障害し、認知症のリスクになるという報告が見られるようになってきました。これらの全身状態の異常は、健康診断に使用する一般の血液生化学検査により評価できるのです。しかしあまりにも複雑で多くのデータが関係しているために、そこから認知症リスクを予測することが難しかったのです。この問題を解決するのがAIに用いられる深層学習です」(酒谷氏)

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