「知能は遺伝する」を行動遺伝学が究明~あなたの「収入」は45歳で遺伝の影響がピークに!

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偏執狂のように遺伝にこだわり、遺伝に翻弄される人間の悲喜劇!

 「蛙の子は蛙」「鳶が鷹を生む」も、「氏より育ち」「育ちより氏」も、個人の格差にフォーカスする行動遺伝学から見れば当を得ている。しかしながら、何も確定的な結論が出たワケではない。

 『ジーニアス・ファクトリー ノーベル賞受賞者精子バンクの奇妙な物語』(デイヴィッド・プロッツ/河出書房新社)を読めば、人間が如何に偏執狂のように遺伝にこだわり、遺伝に翻弄される悲喜劇的な生きものであるかをひしひしと知らされる。

 「子どもの遺伝的形質を精子の段階で選びたい!」――悲願の顛末は1964年に始まる。不妊の人工授精のためにハーマン・J・ミュラーが提唱した精子バンクが米国アイオワ市と東京で産声を上げた。以来、精子バンクの利用者は右肩上がりに増え続けた。

 その余勢を駆って、1980年にノーベル賞受賞者の精子バンク「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」を立ち上げたのが実業家ロバート・グラハムだ。グラハムは「現代の行き届いた福祉制度のせいで無能な人間も子孫を残せるようになった。優性学的に見れば、優秀な人間を残すためにはノーベル賞受賞者精子バンクが必要だ」と妄想した。その優生学的思想の権化というべき遺伝子至上主義の危険な企ては、猛烈な批判に晒された。

 この精子バンクは、精子提供者(ドナー)に詳細なプロフィールを求めるものの、知能指数(IQ)などの確証的な裏付けは、まったく取らなかった。また、ドナーと精子利用者(クライアント)を直接会わせ、折衝することも黙認していた。

 しかも、途中でノーベル賞受賞者の精子を採集することを断念しただけでなく、クライアントの要望に合わせて、スマートで若く、スポーツが得意でハンサムな人物の精子を集めるように豹変したため、ノーベル賞受賞者の精子から子供は生まれていない。

 ただし、精子バンクからは217人の子どもが生まれている。天才は生まれたのだろうか?

 著者のデイヴィッド・プロッツ氏によると「全体的には確かに平均以上だ。だが、個人差が大きいので、遺伝の影響かどうかは疑わしい。精子バンクを利用した母親は教育熱心なので、優秀な子供が育ったのは環境要因が強いのではないか」と分析している。

 だが、遺伝の影響を感じさせる例もある。たとえば、子どもはピアノを弾き、ドナーの母はプロのピアニストだった、子どもは海洋生物学者を夢見ており、ドナーの父と祖父は著名な海洋生物学者だった、子どもはベートーベンよりラフマニノフを好み、ドナーも同じだった、外見がそっくりだったなど、共通性は決して少なくない。

 いずれにしても、マスコミや世論から轟々たるバッシングを浴びたグラハムの精子バンクは、ビジネス的にも倫理的にも不完全だった。グラハムの死去後、跡を継いだ人物が急逝したため、1999年に閉鎖している。

ナチスが進めた優生学研究や人種差別に直結すると強く警告

 さて、精子バンクだが、採取した精子は、0.4~1.0mlの小さなガラス瓶やストロー容器に格納したまま、液体窒素で凍結する。採取後20年以上経った精子でも、健康な子どもが出生した例があるらしい。

 現在、全米で100万人以上の子どもが精子バンクの人工授精から誕生している。その市場規模は1億6400万ドル(196億8000万円)とか。だが、日本には、精子バンクについてのガイドラインも法規制もない。不妊治療したい女性や、結婚しないが子どもが欲しい女性は、ボランティアの精子バンクに依存する他道がない。

 また、精子バンクは、優生学や人種差別に繋がると批判する論調が強い(斎藤貴男『機会不平等』[文藝春秋]/米本昌平『遺伝管理社会 ナチスと近未来』[弘文堂]など)。社会学者シュテファン・キュールも『ナチ・コネクション』(明石書店)の中で、精子バンクもデザイナーベビーも、ナチスが進めた優生学研究や人種差別に直結すると強く警告を発している。

 デイヴィッド・プロッツ氏は「ノーベル賞科学者の精子を元に子供を生んでも、ノーベル賞科学者も天才も生まれない。優秀さを持つ人も、人生を棒に振る人もある。人生の成功者も脱落者もある」と総括している。

 遺伝という生物学的な生命遺産は、人類を幸福にするためにこそ、家族の絆を強めるためにこそ存在するにちがいない。金子みすゞの詩の通り、「みんなちがって、みんないい」のだ。
(文=編集部)

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