写真はシングル「I LOVE YOU」より
酒、ドラッグ、セックス、精神破綻……。27歳の交差点の迷走。それは、誰も避けられないのだろうか。27歳で夭逝するロックスターたちが余りにも多すぎる。「27クラブ」の破綻・失墜だ。
「悪魔に魂を売った」ブルース歌手ロバート・ジョンソン、「ローリング・ストーンズ」のギタリストブライアン・ジョーンズ、神がかりの「天才ギタリスト」ジミ・ヘンドリックス、ヘロインのオーバードーズ(過剰摂取)で「ブルースに葬られた」ジャニス・ジョプリン、ロックバンド「ドアーズ」の名ボーカル、ジム・モリソン、グラミー賞にも輝いた不世出の人気歌手エイミー・ワインハウスなど、枚挙にいとまがない。
その葬列に向かって爆走した男がいる。尾崎豊だ。
尾崎豊の死因は覚醒剤 (メタンフェタミン)中毒 による肺水腫と診断されたが……
1992(平成4)年4月25日午前5時45分ごろ、尾崎は自宅マンションから約500m離れた足立区千住河原町の民家の庭で転倒、全身創痍・全裸のままで住人に発見される。119番通報で墨田区内の白鬚橋病院に搬送、診察を受けるが、妻・兄と共に自宅マンションに戻る。だが、10時ごろに容体が急変、呼吸停止したため、11時9分に119番通報。搬送先の日本医科大学付属病院で治療を受けるが、午後0時6分に死亡する。
死因は、致死量の2.64倍以上の覚醒剤 (メタンフェタミン)のオーバードーズ(多量摂取)による肺水腫と診断される。春雨のそぼ降る中、東京都文京区の護国寺で執り行われた葬儀・追悼式におよそ4万人が参列。密葬は日蓮正宗で営まれる。戒名は「頌弦院智心碩豊居士」。墓所は埼玉県所沢市にある。
尾崎の死因については、様々な異論や疑惑が取りざたされることがある。なぜか?
発見当初は、事件性がないため行政解剖が行われる予定だった。だが、全身にすり傷があり、右目の上にコブもあることから、千住署、警視庁、検察庁が協議の末、司法解剖に切り替える。東京監察医務院の医師らが検視・解剖した結果、死因は肺に水がたまる肺水腫であると発表される。
しかし、2年後の1994年、尾崎の体内から検出された覚醒剤に言及した司法解剖の結果を記載した「死体検案書」のコピーがマスコミに流出。当初の司法解剖の結果に疑念が生まれる。検死を担当した司法解剖医の支倉逸人によれば、死因の肺水腫の原因が覚醒剤中毒である事実は伏せられたが、内臓も覚醒剤を経口摂取した形跡があり、肺にも覚醒剤中毒の症状が見られたという。
また、他殺の疑惑もある。尾崎の遺体には全身に多数の擦過傷と打撲傷があった。だが、検死した支倉逸人によれば、擦過傷と打撲傷を調べたところ、暴行によって生じる傷害と異なる状態であり、頭部の外傷性くも膜下出血も極めて微量の出血のため、死に至るほどの重症ではないと結論づけている。支倉逸人によると、覚醒剤の致死量は個人差が大きく、薬殺の手段として用いるには酒と同じくらい不確実性が高いと述べている(支倉逸人『検死秘録』より)。
さらに、2011年11月10日発行の文藝春秋に「遺書」全文が公開されるが、父・尾崎健一は、尾崎の遺書である事に疑問を払拭できず、「いまとなっては、他殺だとは思ってないけど、あれは自殺ではない。豊じゃないからわからないけど、なんで死んだんだって…いまでも思ってます」と自殺を否定している(尾崎豊の遺書公開に実父「本当の遺書?」「自殺じゃない」 NEWSポストセブン2011年11月18日)。
何れにしても、このような様々な異論や疑惑は、確証するに十分な根拠に基づいて論証しなければならない。したがって、ネット上に流れる信憑性のない憶測や推定は、死因の事実を覆す明白な根拠がない限り、尾崎の死因は揺るがないだろう。