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【連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」」第17回】

実態は<同意しないと進まない> インフォームド・コンセントは「納得した」に変えるべき

医学的内容は複雑怪奇・難解至極

 私は、インフォームド・コンセントの書面の「私は○○を理解しました。よって、△△に同意します」は何とも不適切だと思っている。「理解」を「納得」に置き換えるべきだと以前から主張し続けている。

 日々、医学生に医学を教えている立場からすると、授業で時間をかけて、ていねいに説明・解説した上で試験しても、学生たちは「ろくにできない」ことが多い。試験前には教科書やノートを見ながら復習をしているだろうに……。

 それほど医学的内容は複雑怪奇・難解至極だ。医学用語のひとつひとつを理解しないと、疾患の診断や治療を理解するのはなかなかおぼつかない。医師は、舌は「ゼツ」、左側は「サソク」、両側は「リョウソク」と発音する。「繊維」でなく「線維」という用語を使う。

 壊死(えし)、梗塞(こうそく)、浸潤、穿孔、断端、腫瘤、異型性と異形成、上皮と間質、冠動脈と肝動脈、腹膜・空腸・上行結腸などなどの用語が使われたとき、すっと理解できる患者さんがいるほうが不思議だ。

 「口腔」は医学では「こうくう」と読むが、本来は「こうこう」だ。 「肉芽」も「にくが」ではなく「にくげ」と読ませるのが医学界の風習だ。

「understand」は「理解する」ではなく「納得する」

 世界保健機構(WHO)や米国医師会(AMA)のインフォームド・コンセントの説明の英文原文を読み直すと、意外にも説明を「理解する」というニュアンスは乏しいようだ。

 「be aware of(気づく)」「be informed(知る)」といった単語が使われている。「better understanding」のために質問するチャンスを保証するとも記載されている。この「understand(わかる)」は、「理解する」ではなく「納得する」が近いと私は思いる。

 「私は納得しました」を英語に訳すと「I understand」になる。極言すれば、ICの説明内容に「理解」を求めるのは誤訳だといえる。

 私は、病理医はクールで客観的でありたいと常々願っているし、それができる人種ではないかと思っている。患者さんには、もっともっと病理医を活用してほしい。


連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側「」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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