たとえば、医療者が「腰を守って安静にしていてください」と指示した場合、患者は腰痛について「危険なもので動かしていけない」と認識する。そのアドバイス通りに腰部を必要以上に守ってしまい、その考えが永続的に患者の頭に残り、良くない結果を生んでしまう。腰痛の治療ガイドラインには、「過度な安静はNG」とはっきり書いてあるからだ。
また、必要以上に不安を煽って説明するのも危険だと、この論文では指摘している。
「この腰はもうかなり変形していますね。手術したほうがいいですよ」と言われた患者は、その医療者の言葉に影響を受け、腰痛に対して必要以上に恐怖を持ってしまうという。腰痛(非特異性腰痛)と画像所見は、あまり関係がないことがすでに科学的に証明されているし、ガイドラインにも明記されている。
一方、医療者が「腰痛はきちんと対処すれば完治するので、なるべく日常と同じように過ごしてください」とポジティブなアドバイスをした場合、当然、患者はそのアドバイスに影響を受けて「Stay Active」に行動する。腰痛に対して、必要以上の恐怖を持つこともない。
この論文からわかることは、腰痛を慢性化してしまっているのは「医療者の必要以上なネガティブな言葉」の可能性があるということだ。 つまり、医療者の責任は当然だが重く、正しい情報やアドバイスを与える責任があるということ。患者は医療者の言葉を最も信用し、永続的に影響しうる。
医療は日々進歩している。医療者が勉強を怠り、間違った方向に導いてしまうと、それこそが腰痛を慢性化させてしまう大きな原因となってしまう。そのことを医療者は肝に銘じておくべきである。また、必要以上にネガティブな言葉は「百害あって一利なし」ということも併せて確認すべきである。
一方で患者は、医療機関に受診する際、医療者の必要以上のネガティブな言葉や脅しに、あまり影響を受けすぎないように注意することも必要だ。
最後に、腰痛はきちんと対処すれば「風邪のように治る」ということを、改めて強調しておきたい。
三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在はクリニック(東京都)に理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。