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10月21日未明、天台宗の比叡山延暦寺に伝わる荒行「千日回峰行」に挑んでいたの善住院の住職、釜堀浩元さんが、最後の難行とされる9日間の「堂入り」を無事に終えました。戦後13人目で、平成19年以来8年ぶりとのことです。釜堀さんは、生理学的に9日間の「絶水」「絶食」「絶眠」に耐えられるように、数年間をかけて極限環境に適応した身体にした後、山中のお堂に籠もったといいます。
ここでは、生物の生理学的な面から「絶水」「絶食」「絶眠」の限界について見ていきましょう。
人間は毎日どのくらの水を必要としているのか?
人間の体重のおよそ70%は水です。体重70kgの人なら、約50リットルの水が体内にあります。その構成は、約3分の2が細胞内液にあり、4分の1が細胞間液、残りの12分の1が血漿の中にあります。
人間は水なしでは6日間以上、生きられません。成人なら1日に2000〜2500mlの水を摂取しなければなりません。体中の水は、血液として体内を駆けめぐっていたり、細胞間を行き来したり、内臓や骨を作ったりして、常に動いています。また、体内を動いているだけでなく、さまざまな方法で体外に出てもいます。
私たちは、息を吐くときに、肺から常に水分を出しています。肺や気道は常に湿っていて、この水分は呼吸によって、1日に約400mlも失われています。また、汗をかくことで水分が失われます。汗をかく量は周辺環境などによって大きく変動し、例えば1時間に1500mlもの汗をかく場合もあります。さらに、尿や便の排出があります。健康な人の尿からは約1200ml、便からは約100mlの水分が排出されます。つまり、合計すると1日に2300mlもの水が体外に排出されていることになります。
一方、水分の摂取はどうしているか? 人間は食事によって1日に約600mlの水を補っています。また、体内で食べものを分解しエネルギーに変えるときの化学反応によって水分が生成されます。これを「代謝水」または「燃焼水」といいますが、この水が1日に200ml。これに加えて1日に1500mlの水を飲めば、失われた水を回収することができます。ただし、汗をかいた場合はさらに多くの水分を補う必要があります。
絶食しても水さえあれば1ヵ月以上生き延びられた人もいますが、水が1滴もなければ、たいていは1週間と生きられません。体内で生成した老廃物を排泄しなければならない不可避尿は1日約500ml。随意尿と合わせると1日約1200〜1500mlの尿を排泄することになります。つまり、その分の水を摂取しないと人間は生きていけません。