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【インタビュー「スマホゲーム依存の実態と治療法」第3回:久里浜医療センター・樋口進院長】

夏休みにアカウント削除でスマホ依存脱出! スマホ依存の子に親ができることとは

もしスマホを没収するのなら……

 親は、子どもがスマホ依存にならないために、何かできることはあるだろうか?

 「まず、スマホを与える年齢はできるだけ遅くしたほうがいい。すでにスマホ依存の場合は、まず家族で使用時間のルールを決める。1日5時間ゲームをしている子には、最初から1時間は無理でしょう。始めは『4時間にしよう』と諭し、段階と柔軟性をもって臨んでほしい」(樋口院長)

 「さらに『スマホを使わない時間帯』を定める。たとえば、午後8時~午前9時は絶対使わないと決意して、その間はスマホの電源も切る。このようなルールは、家族全員でトライすると効果的です。

 「ところが、スマホ依存の本人以外が、このルールを破ることが少なくありません。依存予備軍の人が気づくきっかけになるかもしれませんね」

 スマホを取りあげるのもひとつの手段だが、互いの信頼関係がなければ、本人が逆らって余計に事態が悪化する場合がある。もしスマホを没収するなら、無制限ではなく返却するタイミングなど、お互いに納得のいく取り決めをしたほうがいい」

 一方で、樋口院長は、対話のきっかけをつくることも大事だと説く。

 「『どんなゲームやってるの?』など、あえて相手のフィールドに入ることもひとつの手段です。厳しい面ばかりを押し出しても、対話の入り口でシャットアウトされて、スマホ依存への理解を促す機会を見失うこともあります」

 最後に、子どものスマホ依存に悩む親へ、次のようにエールを送る。

 「深刻な場合は、身内だけでなんとかしようとせず、教師や子どもの友だちなどにも相談してほしい。最初は、スマホ依存を本人が認めないかもしれません。医療機関を受診しても、スマホやネット環境を無期限で取りあげるわけではないと伝えてください」

 「『しっかり眠ることができるようになるよ』『健康的な生活が送れるよ』など、依存への治療を重々しく考えず、ポジティブに捉えられるように切り出してみてはいかがでしょうか」

 スマホがなかった時代には二度と戻れない。「スマホと適度に付き合うこと」こそ、現代人にとって、いちばん難しい「ゲーム」なのかもしれない。
(取材・文=里中高志)

樋口進(ひぐち・すすむ)
精神科医。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長。インターネット依存等の行動嗜癖、アルコール関連問題の予防・治療・研究などを専門とする。昭和54年、東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長、同病院副院長などを経て現職。2011年に国内初のネット依存治療専門外来を設立。WHO専門家諮問委員、行動嗜癖に関するWHO会議およびフォーラム議長、厚生労働省アルコール健康障害対策関係者会議会長、同省依存検討会座長(2013年)、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)理事長、国際嗜癖医学会(ISAM)理事などを務める。アルコール耐性を簡便に調べることができる「エタノールパッチテスト」の考案者でもある。著書に『スマホゲーム依存症』(内外出版社)、『ネット依存症』(PHP新書)など。

里中高志(さとなか・たかし)

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。

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