羊水の匂いから赤ちゃんの食の好みが決まる?
また、前述のMennella博士は、本当に食べたものの匂いが羊水からするのか実験を行い、1995年に、その結果を発表しています(注4)。10人の妊婦さんを2グループに分け、にんにくエキスの入ったカプセルまたはプラセボのカプセルを飲んでもらい、約45分後に羊水検査を行いました。13人の判定人がにおいの判定を行ったところ、5人中4人の妊婦さんの羊水が有意ににんにくの匂いがするという結果になったのです。
それでは、赤ちゃんが羊水や母乳を通してお母さんが食べた食べ物の匂いを感じ、結果として特定の食べ物を好きになるということはあり得るのでしょうか?
Mennella博士が2001年に再び『Pediatrics』誌に発表した論文をご紹介しましょう(注5)。47人の妊婦さんを3グループに分け、1つのグループは妊娠後期に3週間にわたって週4日300mlの人参ジュースを飲み、もう1つのグループは産まれてから生後2か月まで週4日300mlの人参ジュースを飲み、残りのグループでは水を飲んでもらうことにしました。
赤ちゃんの離乳食が始まって1か月ほど経ったところで、プレーンのシリアルと人参ジュース入りシリアルを赤ちゃんに食べさせて、その様子を比較したところ、お母さんが人参ジュースを飲んでいたグループのほうが、赤ちゃんが人参シリアルを食べた時に嫌な顔をする回数が少なく、食べた量も多かったのです。また、その傾向は、特に妊娠後期に人参ジュースを飲んでいたグループで強く見られました。
これらの論文を参考にすると、お母さんの食事の匂いが羊水や母乳を通じて赤ちゃんに伝わるのはどうやら事実のようです。
しかし、だからといって洋食や脂っこい食事を摂ると「悪い」「おいしくない」母乳になる、というわけではなさそうです。確かに普段の食卓では肉や乳製品が多くなりやすいので、野菜や魚を積極的に食べるようにするのは良いかもしれませんが、大事なのはバランスです。妊娠中や授乳中のお母さんが、ストレスにならない程度に、色々な物をバランス良く食べると、赤ちゃんにも様々な風味の経験をさせてあげることができるかもしれません。
注1)Mennella JA, Beauchamp GK. Maternal diet alters the sensory qualities of human milk and the nursling's behavior. Pediatrics. 1991;88(4):737-44.
注2)Marlier L, Schaal B, Soussignan R. Neonatal responsiveness to the odor of amniotic and lacteal fluids: a test of perinatal chemosensory continuity. Child Dev. 1998;69(3):611-23.
注3)Hauser GJ, Chitayat D, Berns L, Braver D, Muhlbauer B. Peculiar odours in newborns and maternal prenatal ingestion of spicy food. Eur J Pediatr. 1985;144(4):403.
注4)Mennella JA, Johnson A, Beauchamp GK. Garlic Ingestion by Pregnant Women Alters the Odor of Amniotic Fluid. Chemical Senses. 1995;20(2):207-9.
5.Mennella JA, Jagnow CP, Beauchamp GK. Prenatal and postnatal flavor learning by human infants. Pediatrics. 2001;107(6):E88.
森田麻里子(もりた・まりこ)
仙台厚生病院麻酔科、2012年、東京大学医学部卒業。亀田総合病院の初期研修を修了後、2014年より現職。