会社員の体調不良管理だけでなく街のワクチンステーションにも
ナビタスクリニックのもう一つの特徴は、平日は21時まで、土曜日は17時まで、と会社員が終業後に受診しやすい時間まで診療していることだ。患者からみると、アクセスの良い場所に終業後も受診できるクリニックがあることは便利で心強いものだろう。経営面からみると、通常の診療体制を夜間も維持するとクリニックとしてはコストが増加するが、駅ナカの立地では終業後の通勤客が多くいるので、採算の取れる経営が可能になったのではないかと推測する。
実際、受診は若い勤め人の熱・咳・咽頭痛・鼻水など風邪症状が中心である。受診時間帯は仕事終わりの18-19時頃に多い。小児科が併設されているため、子連れの母親も多い。普段大学病院にいるとなかなか気づかないが、ナビタスクリニックで診療すると、世の中にいかに風邪の人が多いのか実感する。「会社の中でみんな風邪です。うつし合っています。」「熱があって辛いのですが、仕事は休めないから、すぐによくなる方法はありませんか。」と言うのは診察室ではよく聞く話だ。
さらに、ナビタスクリニックは予防接種にも力を注いでおり、フルーミスト(鼻からのインフルエンザ予防接種)、旅行医学(仕事や旅行で発展途上国へ行く際の狂犬病や腸チフスなど特殊な予防接種)、ストップ風疹プロジェクト(先天性風疹症候群を防ぐために、妊娠を希望する女性や妊婦の夫等への風疹予防接種普及活動)など、街のワクチン・ステーションとして存在感を増しつつある。
本年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生は、顧みられない熱帯病(neglected tropical disease)オンコセルカ症の治療薬を発見した。Neglected diseaseとは多くの患者がいるにもかかわらず、その大部分が貧困層であるために市場価値が見出されず、治療薬の開発もなされていないような病気をいう。働くサラリーマンもその健康状態を顧みられてこなかった、という点では同じだ。医療機関は病気の多い老人が受診するものであったからだ。ナビタスクリニックは働くサラリーマンにとっての福音となれるのか?今後のナビタスクリニックの展開に期待したい。なお、私はナビタスクリニックの診療を時折手伝っており、なおかつ個人的にも親しくしていただいているので、利益相反は甚大であることを最後に申し添えておく。
津田健司(つだ・けんじ)
帝京大学ちば総合医療センター 血液リウマチ内科。
2010年北海道大学医学部医学科卒業。亀田総合病院での初期研修、血液・腫瘍内科後期研修を経て現職。
(2016年2月12日 MRIC より抜粋、全文はhttp://medg.jp/mt/?p=6498)