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【連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第21回】

理想的な「糖質」の摂取量は「母乳」に行きつく?日本人の平均値55~60%は摂りすぎ

山田式ロカボだと大人の糖質摂取量を十分に満たしている

 仮に大人のあなたの1日必要カロリー量を2000kcalだとしましょう。もしもあなたの脳が未熟で、4歳の子供と同じくらいに糖を必要としているならば、その40%は糖質から摂取する必要があります。つまり800kcalで、糖質は200gです。

 しかし、その半分はガラクトースなどのすぐにブドウ糖に変わらない、しかも脳の材料としてそのまま利用されることもある糖質です。つまり、消化してすぐにブドウ糖に変わる精製糖質の摂取量は100gあれば十分量だと思います。

 山田式ロカボの糖質摂取量は70gから130gですから、ぴったりここにはまります。あなたの脳細胞が乳幼児なみに糖質を要求する成長過程にある脳細胞だとしても、精製糖質は山田式ロカボの範囲で充分なのです。

 さらに糖質が欲しいのなら「ガラクトースや食物繊維に取り囲まれた難消化性の糖質を100gまで」ということになります。精製糖質で100g、非精製糖質で100gが、4歳児なみの発達途上の脳を持つあなたの適正糖質摂取量ということです。

 でも、もしもあなたの脳の発達はもう終わっていて、大人としての脳の機能の維持だけで良いと考えているのであれば、そんなに必要ではありません。私は「自分にはこんなにたくさんいらない」と思っています。あなたはどうですか?

脳梗塞などの病気からの回復期や認知症の進行を止めるのに必要な糖質量は?

 さて、次に特殊なケースについて考えてみましょう。

 大人のあなたが脳梗塞に見舞われて、傷ついた脳をできる限り再生しようとしているなら? あるいは認知症が進行中の人が脳の機能を維持するためにトレーニングをしているとすれば?

 「こういうときには、糖質量は普通の大人よりももっとたくさん必要じゃないの?」と思いますよね。私もそう思います。

 組織再生時には、白血球や繊維芽細胞がいっぱい集まってきて、糖質を要求します。しかもこういう状況では筋肉量も減っていくばかりですから、糖新生能力も低いでしょう。

 こういうときは、4歳までの乳幼児と同じくらいの糖質摂取で良いのでしょうか? それとも足りないのでしょうか?

 ……これの答えはわかりません。

 参考データとして、出生後1週間の初乳の糖質含有量を見ておきましょう。出生直後は、脳細胞が成長するとともに、最も活発に神経活動を行う時期です。脳全体でものすごい活性化が起こっています。この時期の初乳の糖質含有量は38%です。離乳の頃よりわずかに低くて、その分たんぱく質が増えています。しかも新生児の脳はガラクトースをたくさん使いますから、その糖質の多くは脳の材料として使われるでしょう。

 そうすると、もしも脳細胞を再生して再活性化させる必要があったとしても、それが新生児と同じだと考えても、糖質38~40%以下で充分、実際、ブドウ糖はその半分で充分でしょう。高齢のために消化機能や肝臓機能が落ちている場合だとしても、40%すべてを精製糖質に変えれば十分でしょう(以上は、栄養をすべて経口摂取する前提での話になります)。

日本人の平均値である糖質55~60%は摂りすぎ

 さて、今回の話は母乳の栄養成分から考えた私の仮説になります。

 乳幼児に必要な糖質量がカロリー比で40%で充分で、ブドウ糖はさらにその半分の20%だと考えると、どう考えても現代の日本人の平均値である糖質55~60%摂取は摂りすぎじゃないかと思います。

 でも、糖質制限を批判する方々の中には、いまだに「糖質60%を摂取しなきゃならない」と主張する方々がたくさんいます。

 その中の誰か、教えてください! 4歳児の飲む母乳に含まれている糖質よりも、たくさんの糖質を大人が毎日摂取するべきだという考え方の根拠を――。
(文=吉田尚弘)

連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

神戸市垂水区 名谷病院 内科勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

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