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【シリーズ「これが病気の正体!」第10回】

【閲覧注意】しこりから異臭が…… 皮膚にできた「扁平上皮がん」

かかとのシコリから悪臭が……

【閲覧注意】扁平上皮がん〜「類表皮がん」とも呼ばれる皮膚に生じる代表的ながんの一種の画像2

 患者は72歳の男性。ヒ素やタールへの暴露歴や職業歴はない。3年前に右のかかとのしこり(結節)に気づいた。2年前から、しこりの中央部に潰瘍が生じ、周囲が徐々に不規則に盛りあがってきた。痛みはないが、悪臭がある。

 生検によって「角化型(分化型)」の扁平上皮がんと病理診断され、がんは手術で取り除かれ皮膚が移植された。手術前の状態がこれだ。

【閲覧注意】扁平上皮がん〜「類表皮がん」とも呼ばれる皮膚に生じる代表的ながんの一種の画像3

 かかとの皮膚に、「娘結節」*を伴う潰瘍形成性腫瘍(径3.5cm)が認められる。「周堤」が形成され、健常な皮膚との境界は明らかだ。潰瘍底部には、出血と膿が付着して異臭を放っている。基礎病変としての「瘢痕」ははっきりしない。

*娘結節(むすめけっせつ):大きめの結節(親)の近くにある小さい結節(娘)を指す。衛星(サテライト)結節ともいう。

 顕微鏡的には、核異型の目立つ「異型扁平上皮細胞」が、真皮内に浸潤して増殖していた。がん細胞の角化傾向が強く、「がん真珠」を形成する高分化型扁平上皮がんだった。がん真珠とは、がん細胞のつくる角化物の塊が、真珠のように白く輝いて見えることから名づけられた。

 この症例では、がんは手術で完全に取り切れたため、その後は治療もせずに経過を監察したところ、再発はみられなかった。見た目はとても派手な病変だが、痛みはなく、予後は悪くない。ソケイ部リンパ節への転移の頻度は低い。悪臭は細菌の二次感染が原因だった。

 特殊な職業歴や瘢痕形成がなく、日光に露出しにくい健康な皮膚にできた、このケースの皮膚がんの原因は不明だ。子宮頸がんと同様に、がん原性イボウイルスによる発がんの可能性は否定できない。ちなみに、小児期に多いイボは良性だ。決してがん化しないのでご安心を!
(文=堤寛)

シリーズ「これが病気の“正体”!」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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