AIの登場で病理医はいらなくなるのか?
「私には、医師志望の中学生や高校生から相談のメールが届きます。中には<病理診断はAIにとってかわられるので、病理医はいらなくなるのでは?>という質問もありました。<そうならないように、さらに上を目指すのがプロの仕事だ>と返しました。AIが病理診断をするには、そのプログラムを専門家が作らねばならない。だから、その子には、プログラミングを学ぶ重要性も伝えました」(堤医師)
そして、堤医師は、医学部進学の当時のエピソードを教えてくれた。
「私が慶応高校を卒業した1970年は、医学部枠26名に対して学年成績50番でもギリギリ医学部に行けました。ところが、3年後には27位では医学部に入れなくなった(慶應高校生の家庭教師をしていましたのでわかりました)。慶應大学の内部進学も超難関のようで、名だたる医学部では現役合格も難しいようですね。日本人女性初の宇宙飛行士の向井千秋さん(慶應大医学部卒)は、慶應女子高から医学部へのたいへんさを学生時代に語っていました」
ちなみに、向井千秋さんのご主人・万起男さんは病理医である。
国として病理医の育成を
ともあれ、芦田さんが将来の夢を語ったことで医療職、特に病理医にスポットが当たったことは、人材が不足するこの分野にとってプラスだったといえよう。
「ドラマをきっかけに病理、病理医を知ってもらえたことは、とてもうれいしい。病理医が主役といえば、何といっても米国の人気作家、アーサーヘイリーの小説『最後の診断』でしょう。英国A・J・クローニンの『城塞』も病理医が主役です。武者小路実篤の作品には、結核の病理解剖をテーマにした短編があるそうですね」
そして、堤医師は、「病理医は現実には決定的に足りない。業務量だけでなく、臨床医からの要求(診断の質)が高度化するなか、病理医を増やす仕組みをつくらないとどうにもならない。死因究明という視点でも、検死(法医)解剖を行なう解剖医が圧倒的に足りない。日本という国は死者に優しくない。<死んでしまったらおしまい>でいいのだろうか? 死者に対する最後の医療が解剖なのだ。死因究明は国家の安全にとって必須といえる。国は早急に戦略をたてて、病理・法医の医師を育成する必要がある」と、締めくくった。
(文=編集部)