「腰痛で苦しんでいるのは自分だけじゃない」という安心感
読書療法の効果的な理由の二つ目は、同じように腰痛に悩む人の体験談によって「自分だけじゃない」という安心感を得る。自分自身の隠れていた感情を知ることで、腰痛と前向きに対する気持ちが芽生えたり、その本来の原因が見えてきたりする。
特に慢性化した腰痛には、「腰痛に対する間違った考え方や不安感が影響する」と最近の研究で明らかになってきた。腰痛の原因の一つが脳(考え方)ならば、その考え方を改める必要がある。それを読書によって行うのだ。
また、腰痛の85%は、構造的に問題のない、レントゲンなどの画像所見では原因が見つけられないものだ。その中には「心因性」の腰痛が含まれている。
読書療法は心理的に働きかけるもので、自分自身の感情や状態に気づくことで、腰痛と向き合い改善を図っていく。心因性の腰痛に関する読書療法の書籍には、次のようなものが有名だ。
昔から定評があり、読書療法の先駆けとも言えるのは、『サーノ博士のヒーリング・バックペイン――腰痛・肩こりの原因と治療』(ジョン・E.サーノ:著、長谷川淳史:監修、浅田 仁子:訳、春秋社)である 。
また、日本人向けに書かれている長谷川淳史さん『腰痛は<怒り>である』(春秋社)もオススメだ。
実際に本書を読んだだけで、腰痛が治ったという報告が数多く寄せられている。
これらは「腰痛に対して考え方、認知面を変えていこう」という最近流行りの「認知行動療法」の先駆けだ。先日、そのようなプログラムに工夫をこらし、小説形式で紹介する腰痛の書籍が発売された。
『人生を変える幸せの腰痛学校 ――心をワクワクさせるとカラダの痛みは消える』(プレジデント社)は、鍼灸師であり自らも腰痛経験を持つ伊藤かよこ氏による物語形式の腰痛本だ。
少し前に『夢を叶えるゾウ』(水野敬也:著、飛鳥新社)という自己啓発本がヒットしたが、本書はそれの腰痛版ともいえる。
小説形式で楽しみながら、腰痛に対する医学的情報に基づく正しい理解を得る。本書は豪シドニー大学の慢性腰痛プログラムである認知行動療法を参考にしているとのことだ。
慢性腰痛の多くは<染み付い思考>が悪循環を招く
このように腰痛に対する読書療法は、日本でも少しずつ広まっている。
もちろん、すべての腰痛が読書だけで治るわけではない。慢性腰痛の多くは、さまざまな破局的思考や間違った考えが染み付いて、腰痛の悪循環から抜け出せない。この大きな問題には、考え方を変化させる読書療法は有効だ。
自分で気づいていない心理的な腰痛は多い。そこに読書療法は、一つの選択肢となる。ぜひ、試してみてほしい。
三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の医療、理学療法を学ぶ。2014年に帰国し、東京の医療機関に理学療法士として勤務。現在は札幌市の整形外科専門の医療機関に勤務。その傍ら、一般の人に対しても正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。執筆依頼は、”Contact.mikitaka@gmail.com”まで。
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