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【シリーズ「これが病気の正体!」第5回】

【閲覧注意】タバコで肺が“まっ黒なボロ雑巾”に~これが「肺気腫」の正体!

65歳の男性患者の肺気腫

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 ご覧の肺割面肉眼像(ホルマリン固定後)は剖検時のもので、当時65歳の男性患者の症例だ。患者は一日平均30本×40年間の重喫煙歴を持ち、4年前から散歩時の息切れを覚えた。それを機会に喫煙を中断するも、1年前からは日常生活にも支障をきたし始める。結果、就寝時は上半身を高くしないと眠れない状態となった。

 前掲のばち指があり。胸部エックス線の写真上、胸腔の拡大と肺のエックス線透過性亢進が認められた。患者は入院後に肺炎を併発し、増加した喀痰の排出が困難となって死亡した。

 外来性に吸い込んだ物質(炭粉やケイ酸結晶)は小葉中心部の呼吸細気管支周囲に炭粉沈着し、その後、肺全体に分布する。
 
 進行例の肉眼所見はまっ黒なボロ雑巾のようにみえる。長年吸い込んでため込んだタバコ由来の炭粉が、真っ黒な色の原因なのである! 肺は全体に拡張して、胸腔内での容量を増している。

 炭粉沈着は、肺門リンパ節から遠く離れた頸部リンパ節や腹腔リンパ節にも及ぶことがある。胸膜下には大小のブラが形成される。胸膜は線維性に肥厚して、胸壁と癒着する。二次的な肺動脈拡張(二次性肺高血圧症)を伴ない、心臓は右室肥大を伴う「肺性心」をきたす。

 一度破壊された肺胞の再生は不可能で、完治も儘ならない。治療には、胸腔鏡を用いるブラ縮小術や肺の部分切除術が有効である。呼吸体積の少なくなったよれよれの肺をさらに切り取って縫い縮める治療が有効なのはちょっと不思議。当然、呼吸リハビリテーションも重要である。

シリーズ「これが病気の正体!」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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