胃がんの最大の原因はピロリ菌(shutterstock.com)
日本人の胃がんによる死亡率は高い。長年、部位別がんの死亡者数では胃がんは1位の座を占めてきた。その後、胃がんの死亡者数は大きく低下してきたものの、男性では肺がんに次いで2位、女性では大腸がん、肺がんに次いで3位となっている。
しかも、罹患率では依然、1位というこわい病気なのだ。なぜ、日本人に胃がん患者が多いのか。近年、そこには、ピロリ菌の感染が関わっていることが解明された。一部の乳酸菌はそんなピロリ菌を抑制する働きもある。
ピロリ菌感染は胃がんの発症の大きな原因に
オーストラリアの病理学者と微生物学者によってピロリ菌が発見されたのは1983年。当初は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍との関連が指摘されていた。胃潰瘍や十二指腸潰瘍は潰瘍治療薬によって比較的容易に治癒する病気となっていたが、再発を繰り返すため、「一生つきあっていかなければならない病気」と考えられてきた。
それが、ピロリ菌を除去することで再発を防ぐことができるようになり、胃・十二指腸潰瘍の根本的治療として注目されるようになった。
その後、世界中で研究が進み、ピロリ菌は胃がんや胃ポリープ、さらに消化器以外の疾患などとの関連があることもわかってきた。
ピロリ菌に感染すると、通常、慢性的な胃炎を発症する。胃炎といっても、顕微鏡で見ると多数の炎症細胞が存在するというもので、症状が出ないこともある。その慢性胃炎が進行するうちに、胃の粘膜が徐々に萎縮していき、胃酸の出ない萎縮性胃炎という状態となる。
この萎縮性胃炎は胃がん発症の危険率の高い状態で、「前がん状態」と考えられている。ピロリ菌の感染によって、長年のうちに胃がんになりやすい状態がつくられていくわけだ。
日本人のピロリ菌の感染率は高く、日本人全体の40~50%が感染していると推定されている。ピロリ菌の感染経路ははっきりしないが、衛生環境が整っていない時代や国での幼児期の経口感染によるものではないかと考えられる。
日本でも、年齢が高くなるほど感染率が上がり、50代以上の感染率は60~70%にのぼると推測される。
ただし、ピロリ菌に感染したからといって感染者がすべて胃がんになるというわけではない。ピロリ菌の感染者の胃がん発症率は、年間1%にも満たない数字である。
しかし、この割合は1年間のもので、感染している人にとっては、リスクは年々累積されていくと考えなければならない。そこから試算すると、ピロリ菌感染者の約8~10%が胃がんを発症すると考えられる。
逆に、現在では胃がんにかかった人のほとんどがピロリ菌感染者であることも証明されている。胃がんの発症には、食生活や家系、男女差など他の要因も関係しているが、ピロリ菌が密接に関わっていることは間違いない。
ピロリ菌に感染したことで生じる胃の粘膜の萎縮は、感染している期間が長いほど進行する。そのため、できるだけ早い段階で除菌することが大切だ。