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【連載「眼病平癒のエビデンス」第12回】

白内障の手術が簡単だとは限らない! コミュニケーション不足で術後のトラブルが増えている 

単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの違い

 ここまで書いてきたことは、単焦点の眼内レンズの場合です。単焦点とは、ピントが合う範囲や距離が短いという意味です。遠くにピントが合うレンズでは近くは見えませんし、近くにピントが合うレンズでは遠くは見えません。また、手術費用が保険でカバーされるのは、単焦点の眼内レンズを入れた場合です。

 しかし、眼内レンズには、メガネでいえば遠近両用メガネのように、遠くも近くも見える多焦点眼内レンズもあります。ただし、多焦点眼内レンズを入れても、より良い見え方を求める場合はメガネが必要になります。また、手術費用は保険ではカバーされず、自費になります。

 多焦点眼内レンズの見え方は、すべての人に向いているとはいえないので、単焦点眼内レンズにするかも含めて、よく担当医と相談して決めることが重要です。

 白内障の手術に限らず、術後に不満が出る原因の多くは、術前のコミュニケーション不足によると言われています。様々な情報や他人の経験談を鵜呑みにしないで、自分の生活のスタイル、仕事の内容、メガネの使い方など、自分はどの様に目を使っているのか、今後はどうしたいのかをよく担当医に伝え、希望どおりになるのか聞いておくことが必要だと思います。さらに、矯正視力(メガネをかけた視力)は、白内障以外に目の病気があれば、その病気の影響で視力が出ないこともあります。他の病気の有無も聞いておきましょう。

 以前の患者さんと医師の関係は、「すべて先生にお任せします」というものでしたが、最近は、患者さんが自分の意志で治療方針を決定することが求められています。医師による説明と患者さんの同意があって、はじめて治療が始まることになるのです。このことを「インフォームドコンセント」と言います。医師は、治療の効果や合併症のみならず、他の治療方法や治療を受けない場合の予想される経過などを説明する義務があります。患者さんはそれを聞いて同意すれば治療が始まるのです。

 しかし、患者さんの中にはあまり細かいことや専門的ことを聞いてもわからないので、先生にお任せしますという気持ちの方もいます。医師の側でも、細かいことを言っても混乱のもとになるし、合併症の話しをすると怖がって手術を受けないのではないかと思うことがあり、十分に説明しつくされていないこともあります。

 簡単だと聞いた白内障手術が、期待に見合う結果を得るためには、手術前の検査や手術の説明など、患者さん側も医師側も簡単ではない作業や決定をしなければならないのです。期待が大きいと期待どおりにいかなかった時の不満は大きくなりがちです。一生に一度の手術ですから、良く担当医と話しをして納得してから手術を受けるようにしてください。

連載「眼病平癒のエビデンス」のバックナンバー

高橋現一郎(たかはし・げんいちろう)

くにたち駅前眼科クリニック院長。1986年、東京慈恵会医科大学卒業。98年、東京慈恵会医科大学眼科学教室講師、2002年、Discoveries in sight laboratory, Devers eye institute(米国)留学、2006年、東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科診療部長、東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科診療部長。2019年4月より現職。
日本眼科学会専門医・指導医、東京緑内障セミナー幹事、国際視野学会会員。厚労省「重篤副作用疾患別対応マニュアル作成委員会」委員、日本眼科手術学会理事、日本緑内障学会評議員、日本神経眼科学会評議員などを歴任。

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