インスリン注射から解放される!?(shutterstock.com)
糖尿病では血糖値のコントロールが重要になる。その有効な方法のひとつに、皮下注射によってインスリンを補充する方法がある。ただし、「注射は痛い」「大変」とのイメージから、抵抗を感じて踏み切れない患者も多い。
インスリンの薬剤もデバイスも、近年、目覚ましく進歩してきたが、このほど、韓国の研究チームにより、汗によって血糖値を測定し、必要に応じて薬剤を投与できる「パッチ」が開発された。実用化が進めば、このパッチを貼るだけで糖尿病の管理と治療が可能になる。
汗で血糖値を測定し、その値に応じて薬剤を経皮投与
3月21日にオンライン版「Nature Nanotechnology」に掲載されたこの論文は、韓国ソウル大学校のHyunjae Lee氏らの研究チームによるものだ。
今回、パッチの素材には、導電性が高く、透明で柔らかく、薄くて軽い性質を持つ「グラフェン」を用いた。また、パッチには、湿度や汗中の血糖値、pH、温度を検出するセンサーのほか、熱感受性の極小針を搭載。汗で血糖値を測定し、さらに血糖値に応じて薬剤を経皮投与する仕組みを開発した。
Lee氏は、「今回の研究では、糖尿病の管理や治療につきまとう、血糖測定時の採血やインスリンなどの注射の際に伴う痛みをいかに抑えられるかに焦点を当てた」と述べている。
付随論説を執筆した英バース大学教授のRichard Guy氏によると、血糖測定法には指先の穿刺とセンサーを皮下に埋め込む持続血糖モニターの2つがあるが、いずれも侵襲的であることが問題で、過去には、米国のある企業が、皮膚に貼り付けたパッチで間質液を採取し、低侵襲で血糖を測定する「GlucoWatch ®」を発売したが、商業的に成功せず、市場から姿を消しているという。
研究チームは、健康な男性2人を対象にこのパッチを試したところ、米国の家庭で使われている血糖測定器とほぼ同程度の精確さで血糖値を測定できることがわかった。また、マウスを用いた検討で、搭載した極小針を用いてメトホルミンを6時間にわたって経皮投与したところ、血糖値は400mg/Lから120mg/dLへ低下した。
Lee氏らによれば、商品化に向けた次なるステップは、パッチの長期的な安定性と血糖測定センサーの精確さの向上で、その他の課題も克服しつつ、実用化には少なくとも5年は必要とのことである。