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【シリーズ「最新の科学捜査で真犯人を追え!」第12回】

歯型で個人を特定! 東日本大震災でも使われた「法歯学」の鑑定力

歯型で個人を特定! 東日本大震災でも使われた「法歯学」の鑑定力の画像1

歯科治療のX線写真は3年間、保存されている(shutterstock.com)

 日航ジャンボ機墜落事件、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件、阪神淡路大震災、東日本大震災……。

 この半世紀足らずの間に、日本人の記憶に深く刻まれて忘れられない大事故、凶悪犯罪、自然災害の爪痕が数多く残されてきた。このような不測の大事件や大災害が発生した時、原因の究明や犯人の逮捕とともに、まず急がれるのが被害者の身元確認だろう。

 遺体の身元確認の最も有力な決め手になるのは歯型だ。それはなぜか?

歯型は、被害者の人種、年齢、性別、血液型、経済状態を物語る

 歯の構造を見よう。歯は、エナメル質、象牙質、セメント質、歯髄などで構成されている。外側の白いエナメル質は、人体で最も硬く(モース硬度6~7、水晶と同程度の硬さ)、厚みは約2~3mm。外部刺激から歯の神経が通う歯髄を守っている。

 主成分は、ヒドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム)という無機質が約96%、残りの4%が水と有機物だ。

 エナメル質の下にある象牙質は歯の主成分。エナメル質を支え、歯髄を保護している。歯髄は、痛みを感じる、象牙質を形成する、栄養を供給する、炎症などの刺激を防御するなどの役割がある。歯の根元にあたる歯根の表面を覆っているセメント質は、歯根膜と呼ばれる結合組織を歯根につなぎとめている。

 歯は、硬度、強度がすぐれているため、死後年数が経過して骨が変質しても、原型を留めている。

 歯の治療を歯科医院や大学病院などで受けている人は少なくない。歯に関する情報は、歯科医院や大学病院が保存している歯の治療履歴、歯のカルテ、X線写真に残る。つまり、歯型には、歯科治療の痕跡が明瞭に残され、治療履歴を調べれば、個人の特定につながる。

 歯型を調べると何が分かるのか? たとえば、遺体の歯並びが良ければ、歯科矯正治療を行なっていることや、義歯のグレードから経済状態が分かる。とくに臼歯は加齢によって摩耗・破折するため、およその年齢を推定できる。象牙質・歯髄の細胞や歯石に残存した唾液から血液型や性別が判明する。上顎の第2切歯(中切り歯)などから顔貌が推測できる。歯槽骨をX線撮影すると特有の紋様が写る。

 つまり、歯や顎の大きさ・構造・損傷度などはすべて異なるので、個人を特定できるのだ。

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