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昭和大学、なぜ医師主導治験でクラウドファンディングを活用?死亡率1位の肺がん治療の実態

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左から、小林真一臨床薬理研究所所長、角田卓也教授、吉村清教授、和田聡教授(いずれも昭和大学医学部)

 一般的には、がんは早期発見でなければ治癒は困難という見方が広がっているが、現在は死亡率が高く治療が困難な肺がんも、将来的には死に至る病気ではなく、慢性疾患となるかもしれない。そんな可能性を秘めた研究が、本格的にスタートしようとしている。

 昭和大学は全国の大学や病院と連携し、肺がんに対する新たな免疫療法の確立を目指して、医師主導の治験を開始する。医師主導の治験は人的・経済的負担が多いため、資金調達にはクラウドファンディングを活用する(目標金額2000万円)。医師主導の治験もクラウドファンディングも、昭和大学としては初の試みだ。

 そこで、昭和大学は5月18日に「命を救う新たな選択肢を!肺がんに対する免疫療法の治験を利用した研究」と題したオンライン記者会見を開いた。

死亡者数1位の肺がん

 肺がんは1998年には胃がんを抜いて死亡率1位となり、2018年には約7万4300人が肺がんで亡くなっている。これまでがん治療といえば、外科、放射線治療、化学療法が主役だったが、新たな免疫療法薬「免疫チェックポイント阻害剤」の登場などで患者の生存率が向上し、がん免疫療法を受けた患者の中に、治療の効果がカンガルーの尾(テール)のように長く続くケースが存在することが明らかになった。これは「カンガルーテール現象」と呼ばれるものだ。

「今回の治験は、カンガルーテールをいかに押し上げるかの工夫をし、さらに、メカニズムを究明していくことが目的です」(小林真一・昭和大学臨床薬理研究所所長)

 がん免疫療法は従来の抗がん剤を用いる方法とは異なり、自らの「免疫の力」を利用してがんを攻撃する治療法で、抗がん剤に比べて副作用が少ないという特徴がある。一方、効果の点などで未解明の部分も多いため、昭和大学は今回の治験で解明を試みるという。

「今、がん治療で何が起きているかといえば、手術できない進行がんでも、がん免疫治療法により亡くならない患者が出ており、がんはすでに死に至る病ではなく、慢性疾患となりつつあります。今後、カンガルーテールをさらに押し上げ、がんの完治を目指すことも当然考えられます」(角田卓也・昭和大学医学部腫瘍内科教授)

 昭和大学の臨床試験では、免疫を低下させずにがんのみを攻撃する併用療法を導入する。肺がん治療に用いられる薬で、がんが増えるのを防ぐ「ネシツムマブ」という分子標的薬と、がん細胞ができても攻撃できるようにする「ペムブロリズマブ」という免疫チェックポイント阻害薬の2つを併用し、「どのような患者に、より効果的なのか」を科学的に探求する。また、今回の治験では、併用療法の有効性とともに安全性も検証する。

「治験体制は、昭和大学全体で治験するほか、全国の11大学の協力を得て臨床試験を行います。一方、医師主導の治験であるため、どのようにすれば患者さんに効果があるかを見極めたいと考えています」(角田教授)

 さらに、「ネシツムマブ」と「ペムブロリズマブ」の併用療法では患者の便を解析し、腸内細菌の特徴と治療効果の関係を明らかにするという。

「どういう腸内細菌を持っている患者さんに効果があるのか、どのような腸内細菌に変えると効果があるのか、という点についても解析していきたいです」(角田教授)

 吉村清・昭和大学臨床免疫腫瘍学部門教授は「がん微小環境におけるさまざまな細胞がどうなっているかについて、血液で実証実験をすることで、良い環境について調べます。つまり、カンガルーテールを押し上げるために、良い腸内細菌と悪い腸内細菌を探して治療効果を向上し、副作用を減少させたいと考えています」と語った。

 腸内細菌は体の中に約1000種類・数百兆個が生存している。腸内細菌が乱れると、さまざまな病気につながり、がんもその中のひとつであることが、近年の研究で明らかになっている。昭和大学では、AIや複雑な統計解説を使って腸内細菌を調査するという。

「実は腸内細菌のデータは欧米が多く、日本人は少ない。そこで、しっかりと我々が調べていきたいと考えています」(吉村教授)

 また、和田聡・昭和大学臨床腫瘍診断学部門教授は「カンガルーテールを得られる患者さんは、まだ100%ではありません。どういった患者さんが得られるのかといった点についても、明らかにしたい」と述べた。

 これまでの研究成果では、免疫療法治療では特定の免疫能「CD14」を持つ患者がカンガルーテール現象を示すことがわかっている。肺がんのがん細胞には「顔つき」があり、免疫から認識されやすい細胞もあれば、認識されづらい細胞もある。認識されやすいがん細胞の場合、がん細胞が増幅できず、カンガルーテールを得られる可能性が高い。そこで、併用療法でも同様の現象が起きるかどうかについて究明する。

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