三叉神経やイオンチャネル型受容体との関連性
痛みと冷たさの受容体はそれぞれ異なっていますが、同じ神経繊維を経て大脳に伝えられます。そもそも、冷たい物が、喉の三叉神経を通過する際に、本来なら冷たいという情報だけが脳に伝わるはずですが、寒冷刺激が持続的で、さらに生体温度とかけ離れた0〜4度という温度のために、受容体の過剰な刺激により、痛覚神経の過度な興奮が起こり、頭痛が発症するとする仮説があります。この仮説では、アイスクリーム頭痛が三叉神経との関連や、温度センサーであるTRP(transient receptor potential)チャネルの関連(※4)で起きることが示唆されます
三叉神経は顔の痛み、冷感、温感、触感などを脳に伝える神経で、途中で三つの経路にわかれています。第一枝はおでこのあたり、第二枝は頬のあたり、第三枝が下顎です。3つにわかれているので、「三叉」神経といいます。
口腔・咽頭の三叉神経や舌咽神経が急激な寒冷刺激を受け、その刺激が上行し三叉神経核を刺激することで痛みとして認識されます。すなわち一種の「関連痛」の可能性が指摘されています。瞬間的に痛みが生じるタイプや数十秒遅れて出現してくるタイプは別の機序が有力視されていますが、詳細は解明されていません。
もうひとつ、人の生体膜にあり、外界からの刺激を情報に変換する膨大なイオンチャネル型受容体との関連性があります。これらの受容体がイオンを透過させて、情報伝達を行っているのです。1997年に温度センサーとしてのTRPイオンチャネルの活性化のレベルが報告されました(※4)。
この受容体群は、広い温度範囲での温度変化を感知できると考えられています(※5)。特に、このチャネルの1つのTRPM8は、メントールのような化学的冷感物質により、あるいは周囲の温度がおよそ摂氏約26度以下に下がったときに活性化され、感覚性ニューロンによる寒冷刺激感知を仲介することが示唆されています。皮膚などからの冷刺激情報を感知し中枢へ伝達する役割を担っています。
冷たいものを食べる前に暖かいものを口にする
アイスクリーム頭痛は、数秒から数分で自然に消失し、特に内服・加療などの治療の必要はありません。ただし、アイスクリーム頭痛がよく起きて不快と感じる場合は、アイスクリームやかき氷を食べる前に、あらかじめ暖かいお茶などで口腔内温度を上げてくことで、ある程度の発症の予防になります。さらに、当然ながら冷たいものの摂取を避けることによって、アイスクリーム頭痛は発症しません。
アイスクリーム頭痛について説明しました。この頭痛は、その発症機序や遺伝学的な側面から、経験的にその存在は広く認識されていますが、その病態やメカニズムはまだまだわかっていません。今後の研究の進展を期待しています。
※1)Fuh JL, Wang SJ, Lu SR, Juang KD. Ice-cream headache--a large survey of 8359 adolescents. Cephalalgia. 2003 Dec;23(10):977-81. Erratum in: Cephalalgia. 2007 ;27(3):286.
※2)西郷和真、米島康平、長谷川隆典、ほか: 口腔内寒冷刺激における体温変動について(会議録)日本頭痛学会誌 45(2), 422, 2018
※3)Mages S, Hensel O, Zierz AM,et al. Experimental provocation of 'ice-cream headache' by ice cubes and ice water. Cephalalgia. 37(5):464-469.2017
※4)Caterina MJ, Schumacher MA, Tominaga M, et al. The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature. 1997 ;389(6653):816-24.
※5)Kambiz S, Duraku LS, Holstege JC,et al. Thermo-sensitive TRP channels in peripheral nerve injury: a review of their role in cold intolerance. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2014;67(5):591-9.