「高齢者虐待」防止の対策はどこまで効果があるのか
厚労省は各都道府県の相談窓口を整備しつつ、虐待を未然に防止する体制作りを進める。
都道府県の地域包括支援センターでは、ケアマネジャーや民生委員が「身体的虐待」や「介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)」の相談を随時受け付けている。
たとえば、2008年に松戸市は「高齢者虐待防止マニュアル」を作成した。「マニュアル」を家庭用・専門職用・養介護施設用に分け、虐待の定義や種類、相談・報告の仕方、虐待を受けている高齢者の身体面、行動面に見られるサインなどを解説。異変に気付いた人には、地域包括支援センターへの連絡を呼びかけている。このような地域包括支援センターのサポートは高齢者にも介護者にも欠かせない。
経済的な負担は発生するが、虐待を防止するために有料老人ホームなどの高齢者向け施設に入居する選択肢もある。
だが、高齢者の暮らしを見守る社会体制の構築だけでは不十分。介護ストレスが虐待を誘発する可能性が高いため、介護うつが原因で虐待に陥る介護者へのケアも必要だ。
2005年の厚労省の調査によると、介護者の4人に1人が介護うつに悩んでいるという。介護者がストレスを感じる介護(複数回答)は排泄時の付き添いやおむつの交換62.5%、入浴時の付き添いや身体の洗浄58.3%、食事の準備や介助49.1%、車椅子からベッド、便器、浴槽、いすへの移乗介助48.3%、寝返りやベッド、いすからの立ち上がりの介助47.7%、屋内の移動介助37.8%、認知症の症状への対処28.9%、徘徊の防止や夜間の転倒防止の見守り28.2%、外出や買物の付き添い19.4%、リハビリ、歩行訓練の付き添い16.1%だ(「介護ロボットに関する特別世論調査の概要」など)。
ちなみに、認知症が進んだ高齢者の「経済的虐待」を防止するために2012年に始まった「後見制度支援信託」がある。日常的な支払いをするのに十分な金銭を後見人が管理し、通常時に使わない金銭は信託銀行などに預ける仕組みだ。
後見人になった親族が財産を不正使用できなくなるので、「経済的虐待」を防止できる。利用者は累計約2万1500人、信託財産額は約6988億2800万円(2017年)と普及しつつある。(「後見制度支援信託の利用状況等について-平成28年1月~12月」)
「高齢者虐待」も「介護ストレス」も長命長寿が招いた文明社会の足枷手枷であり、誰も避けられない。今この瞬間も、介護施設や介護をする家族の間で起きている生々しい現実だ。(文=編集部)
【参考】
厚労省~平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
高齢者虐待が起こる理由と対策