国内の「高齢者虐待」も増加傾向、死亡者は28人も
虐待は「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)」に分かれる。日本の「高齢者虐待」の現状はどうなっているのか。
今年3月26日、厚労省は介護老人福祉施設や居宅サービス事業で発覚した65歳以上の高齢者の虐待件数が過去最多の510件(2017年度)、前年度比約13%の増加と発表した。
2006年度に施行された「高齢者虐待防止法」に基づいて、都道府県や市町村が通報や相談を受けて対応した件数をまとめたところ、12年連続で最多を更新した。厚労省は虐待への問題意識が高まり、通報や相談の増加につながったと判断し、都道府県にさらに虐待防止策を推進するように通知した。
発表によると、介護老人福祉施設や居宅サービス事業で職員による虐待を受けた被害者は854人。死亡者はない。
虐待の内訳(複数回答)は暴行する、ベッドに縛り付ける、外部との接触を遮断するなどの「身体的虐待」が511人、暴言を吐く、無視する、嫌がらせをするなどの「心理的虐待」が261人、おむつを替えない、入浴させない、水分や食事を充分に与えないなどの「介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)」が144人。
虐待の発生要因(複数回答)は「教育・知識・介護技術に関する問題」が303件、「職員のストレスや感情コントロール」が133件、その他が74件だった。
虐待の発生理由は、人手不足、職員の教育不足、労働環境の未整備、認知症の症状がある被害者の存在、被害者の性格、虐待者の人間関係などだ。
一方、家族や同居人などによる虐待件数は過去最多の1万7078件(前年度比約4%の増加)。被害者は1万7538人で、死亡者は28人だった。虐待者の続柄は息子が40.3%、夫が21.1%、娘が17.4%。虐待者と介護者が同一者の場合が多い。
「⾼齢者虐待」の要因は「⽣活苦」「希薄な近隣関係」「介護者の社会的な孤⽴」「⽼⽼介護や単⾝介護の増加」「介護者のニーズに合わない介護施策」から、「虐待者(介護者)の介護疲れ」「⻑期にわたる介護ストレス」「介護に関する知識不⾜」「認知症による⾔動の混乱」「⾝体⾃⽴度の低さ」まで多岐にわたる。
「性的虐待」や「経済的虐待」も高齢者を苦しめている
「性的虐待」とは本人の合意がなくあらゆる性的な行為を強要する、排泄の失敗に対する罰として下半身を裸にして放置する、キス、性器への接触を強要するなどの虐待だ。
「経済的虐待」は本人の合意なく財産、年金、預貯金を利用する、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限する、日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない、本人の自宅などを無断で売却するなどの虐待をさす。
高齢者約1万6,000人を対象にした「平成28年度老人保健事業推進費等補助金報告書」によると、「身体的虐待」66%、「心理的虐待」41%だが、「経済的虐待」も20%と少なくない(複数回答)。
このように高齢者の心身にダメージを与え、人間の尊厳を傷つける行為はすべて虐待だ。