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【 シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 第16回】

『ブラックペアン』過剰で疑問だらけの医療設定 もっと二宮和也の切れた台詞が欲しい!

現実とは違う疑問だらけの心臓手術の演出

 最終的に、小春ちゃんにはカテーテル手術で僧帽弁置換術を行う、という設定になりました。

 実臨床で、僧帽弁閉鎖不全症の治療では、マイトラルクリッピングとういう、カテーテルで僧帽弁をクリップする治療が先月から保険適応になりました。ホットな話題が入ってきましたね。今回の様に心臓にカテーテルを入れるためには、大腿静脈からカテを挿入します。心房細動、心房中隔欠損症の治療で実際に行われています。

 心房細動の治療では、房室中隔を突き抜けて、右房から左房へ入る手法をルーティンで行っています。ですが、劇中では高階先生がニノの提案を聞いた時に「右房から左房へ入る方法なんて、よほど腕が良くないと!」と言っていたのには驚きです。ニノの腕が素晴らしいことを描写するためだったとは思いますが、実臨床を行っている循環器内科医なら、当たり前の手技です。

 でも、さすがにスナイプの先端をカテーテルに着けていれるというのは無謀な設定にしか見えず、鼠径部からスナイプのハンドルを引いて僧帽弁を開いた時には、「ん?なんであんな離れた場所からできちゃったの?」と、設定のお粗末さを感じてしまいました(笑)。

 さらに一つ、突っ込みを入れさせていただくと、今回は房室中隔にもともと穴が開いていましたね。通常は針で穴をあけてガイドを通しますので、もともと穴が開いているのであれば、その穴にガイドを通すだけの話なのですが、高階と渡海の力を合わせた結果の成功のように描かれていて、少々苦笑してしまいまいました。そして、最後は何で房室中隔を閉鎖したのかは謎。

 今回のブラックペアンは、医療ネタが多かっただけに突っ込みどころ満載でした! が、ドラマとしてはもっと切れ切れのニノの台詞を聞きたかったです。

 余談ですが、そもそも人工弁を体に入れると、血の固まりにくくする薬(ワーファリン)を服用する場合もあるし、生体弁の場合は平均10年の耐久年数ですので、自分の弁が直せるなら絶対、弁形成術がファーストチョイスです。ですので、オペかスナイプか?なんていう議論はあり得ないと、循環器医の主人が言い出しました。

 現状では80~85歳以上の方でオペのリスクが高い時のみ、人工弁置換を選択するのが現在の臨床の考え方だそうで。ま、スナイプ自体が架空のものなので、そこにこだわっても仕方がないのですが。今回はブラックペアンを見ていて、ツッコミばかり入れている自分にはたと気がつき、少々寂しい気持ちになりました(笑) 楽しむために見ているのに……。

 ドラマを見終わった息子たちは、すかさずTKG(たまごかけごはん)を食べていました!

 次週予告で登場したのダーウィンとは手術ロボット「ダビンチ」のことでしょうか?「医療には道具も必要だが腕も必要だ」と言っていた佐伯先生。どんどん黒さが露呈されております。佐伯教授のオペシーンでの縫合の手は差し替え画像を確信させるほど素晴らしい手さばきでした(笑)。
(文=井上留美子)


『ブラックペアン』過剰で疑問だらけの医療設定 もっと二宮和也の切れた台詞が欲しい!の画像2

井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

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