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【連載「死の真実が〈生〉を処方する」第45回】

「てんかん」という病〜発作や症状のコントロールで運転も可能

「てんかん」という病〜発作や症状のコントロールで運転も可能の画像1

大人になってから「癲癇」と診断されることもある(depositphotos.com)

 「てんかん(癲癇)」は大脳にある神経細胞の一部が異常に興奮すると起き、短時間、意識がもうろうとしたり、意識を失う状態になります。

 もし、その発作が運転中に起こったら……。本人は、その間のことを覚えていなかったり、自覚がないことも多いので、周囲の人の細かな洞察が必要です。

 「てんかん」と聞くと、多くの人は「目玉が上を向いて全身がガクガク震えている姿」を想像するかもしれません。確かに、このような全身性の発作が生じることもあります。

 しかし実際は、短時間、意識がもうろうとしたり、消失することが多いのです。また、若い頃にてんかんと診断されていなくても、年を取ってから罹ることもあります。今回は、てんかんという障害について考えてみます。

よくある症状と前触れ

 先ほどまで話していた人が、突然ボーッとして、会話ができなくなったり、問い掛けに応えなくなることがあります。その時、目は開いているのですが、一点を見たままの状態になります。その後、口をクチャクチャさせる、手をかき回す、ふらふら歩き出すこともあります。

 このような状態はすぐに戻りますが、これらはてんかん発作の一部です。

 もちろん、本人はこの間のことを全く覚えていません。専門用語では「複雑部分発作」と呼びます。また、ほんのわずかな間(10秒程度から数十秒間)意識を失うこともあります。

 そして、すぐに元の状態に戻りますから、周囲からは気づかれないことが多いのです。これを「欠神発作」と呼びます。

 このような発作が、高齢になって、突然、現れることもあります。ですから、全く病歴がない人でも、このような症状が現れたら医療機関を受診する必要があります。

 てんかんの症状は、人によって異なりますが、その人それぞれに同じような発作が繰り返されます。

 ですから、複数回の発作を目撃した周囲の人が、「また同じ状態だ」と気づくことがあります。さらに、発作前に本人が前触れを感じることもあります。たとえば、手や顔のしびれ、吐き気、まぶしい、変な音が聞こえるなどです。

なぜ、てんかんの発作が起きるのか?

 「てんかん」は慢性の脳の病気です。脳には神経細胞がありますが、細胞の電気的剌激が伝わることで、脳からさまざまな指令が出ます。ところが、大脳にある神経細胞の一部が異常に興奮すると異常な刺激が伝わり、これがてんかん発作となるのです。

 わが国には約100万人のてんかん患者がいるといわれています。おおよそ人口100人に1人程度です。

 頭部外傷を負って脳に傷がついたり、脳卒中などで障害ができててんかんを起こす人もいます。このような脳の何らかの障害によって起こるてんかんを「症候性てんかん」と呼びます。

 一方、さまざまな検査をしても脳に明らかな障害が見つからない原因不明のてんかんを「突発性てんかん」と称します。成人になって生じる突発性てんかんは、予期することが難しく、初発発作の場合には予防は不可能です。

 てんかんの中でも意識を失わない場合は、自分で前触れを自覚しますし、その症状も分かります。このようなケースでは、本人が医師のもとを訪れて一部始終を説明できます。

 しかし多くの人は、発作時に意識がもうろうとしたり、消失していますから、自身の状態を説明できません。たいていは、発作を目撃した人、特に複数回、同じような症状を目撃した人から受診を勧められることが多いようです。

 したがって、医療機関を受診する際には、目撃してくれた人と一緒に訪れて、詳細に状況を説明してもらうのが良いです。脳の検査(MRIや脳波など)を行い、その結果に応じて、てんかん発作を抑える薬(抗てんかん薬)が処方されます。

 約7~8割の患者は、適切な治療で発作を抑えること(コントロール)が可能です。したがって、てんかんが疑われる場合、すぐに医療機関を受診して適切な治療を受けるべきなのです。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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