ジフェンヒドラミンの大量服用では死亡例も存在する
2015年の日本中毒学会で、旭川医科大学法医学教室の清水恵子医師は、元来は健康であった20歳代の女性が、自宅のベッド上で死体となって発見された事件について報告した。
自宅内には、薬物の空き箱などは認められなかった。若年の健康女性であったため、死因に不審を抱き、司法解剖となった。
その結果、女性には死因となる外傷は認められず、死体の血液より致死量の「ジフェンヒドラミン」が検出された。死因は急性ジフェンヒドラミン中毒であると結論づけられた。
後日の警察の捜査で、この女性は近隣の薬局より「トラベルミン」を100錠以上、購入していたことが確認された。
急性トラベルミン(ジフェンヒドラミン)中毒とは?
酔い止め防止の市販薬「トラベルミン」は、抗ヒスタミン作用を有する「ジフェンヒドラミン」と本誌の第36~38回にて報告したカフェインやテオフィリンと同じキサンチン誘導体の「ジプロフィリン」の合剤である。後者はテオフィリンよりも毒性が低いとされ、本剤の中毒症状は前者が主体を成す。
ジフェンヒドラミンの中毒症状は、全身の発疹、眠気、倦怠感、頭重感、めまい、動悸、悪心、嘔吐、下痢などの多彩な症状を認め、重症例では、昏睡、呼吸困難、ショックに陥り、最悪のケースでは死に至ることもある。
致死量は2,800mg以上(本剤70錠以上)。私が経験した症例では、20歳代女性が2,400mgを服用したことになるが、幸いにも救命できた。しかしながら、旭川医大の症例では、放置され、発見に至るまで長時間を要したため、死亡したものと思われた。
本剤を大量服用した際には、出来るだけ早期に医療機関を受診し、胃洗浄や輸液などの適切な治療を受けることが是非とも必要であろう。