がん免疫療法で「生存期間の延長」が証明
ヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO2017)にて
私が個人的に注目したのは、さまざまな併用療法のなかでも「免疫療法と抗がん剤の併用療法が本当に患者の予後を延ばせることができるのか?」というもの。
今回、非小細胞肺がんに対して、抗PD-1抗体と従来の抗がん剤を併用する「Keynote021試験」の結果が報告されました。
昨年『Lancet Oncology』に結果が発表されたのは、<免疫療法併用したグループが、PFS(Progression free survival:腫瘍が元より20%以上大きくなるのにかかった期間)で優位に優れていた>というもの。FDA(米国食品医薬品局)も、この併用療法を承認しました。
しかし、OS(Over all survival:全生存期間)では、観察期間が短かったこともあるのか、併用、非併用で全く差が見られませんでした。それが、今年のASCO(シカゴ)でやや差が開いてきたとの報告があり、ESMOでの発表を注視していました。
すると今回は、OSで統計学的に優位な生存期間の延長が見られたということです。がん免疫療法の強みである「生存期間の延長」があらためて証明されたのです。
しかし、果たして<がんを治す>といえるほどの成果を得られたのか? その答えは、少なくとも3年、5年の生存を観察して、がん免疫療法だけでも生存期間を向上できるかにかかっています。
ESM2017の後、FDAは、抗PD-1抗体について肝細胞がん、胃がんにも適応拡大を承認。わが国も胃がんへの適応拡大を承認しました。がん免疫療法は確実にがん治療の核となってきています。
いずれにしても、患者さん自身に備わる免疫力を活用する「がん免疫療法」が、がん治療の世界に大きな変革をもたらすのは間違いありません。
(文=角田卓也)
角田卓也(つのだ・たくや)
昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学講座教授。和歌山県立医科大学卒業後、同病院で研修。1993年、腫瘍浸潤リンパ球の研究をテーマに医学博士号を取得。92~95年、米ロサンゼルス、シティオブホープがん研究所に留学。同講師就任。95年、和歌山県立医科大学第2外科助教就任。日本初の樹状細胞療法を実施。2000年、東京大学医科学研究所講師、05年、同准教授就任。10年、バイオベンチャー社長に就任。日本初の大規模がんワクチンの臨床試験を行う。2016年5月より現職。30年間一貫してがん免疫療法を研究する。著書に『進行がんは「免疫」で治す 世界が認めた がん治療』(幻冬舎)』。