世界で「がん免疫療法」が確実に浸透(depositphotos.com)
「ヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO2017)」がスペイン・マドリードで開催され、131カ国からがん治療に関係する臨床家・研究者・企業など2万4000人が集いました。
今回、前年より13%以上多い3260の演題が投稿され、1736採択されました。さらに発表と同時に、世界の一流誌である『The New England Journal of Medicine 』に4論文、『Annuls of Oncology』に3論文、『Lancet Oncology』に1論文を掲載。
さすが「米国臨床腫瘍学会(ASCO)」に次ぐ、世界第2位の規模のがん治療に関する学術集会――の印象をあらためて感じました。
がん免疫療法の確実な浸透を実感
今回まず実感したのが、がん免疫療法の確実な浸透です。筆者も『進行がんは「免疫」で治す 世界が認めた がん治療』(幻冬舎)』を上梓し、免疫本来の力を回復させてがんを治療する「免疫療法」の種類と効果、実績を一般の人にもわかりやすく解説してきました。
拙書でも触れたとおり、がん免疫療法は、効果が明らかな「免疫チェックポイント阻害薬」(抗 PD-L1 抗体:薬剤名オプジーボ、キイトルーダなど)が登場し、治療方法は飛躍的に進歩しています。
今までがん免疫療法は、主にステージIVの患者に対する治療法として開発されてきましたが、「ESMO2017」では、その前段階であるステージⅢの患者(非小細胞肺がん)に「抗PD-L1抗体」を用いた治療の優位性が証明された――という発表がありました。
さらに、メラノーマ(悪性黒色腫、皮膚のがんの一種)に対して、外科手術後の再発予防のためのアジュバント療法(術後補助療法)に「抗PD-1抗体」を加えると明らかに再発予防につながるという発表もありました。
がん細胞が<免疫にブレーキをかけている>状態では、免疫はがん細胞を攻撃できません。「免疫チェックポイント阻害薬」は、がん細胞が<免疫にブレーキをかける>仕組みに働きかけ、その<ブレーキを外す>ことで免疫細胞に本来の力を発揮させるのです。
このがん免疫療法は、がんの治療体系のなかで大きな影響を与えているといっても過言ではありません。この傾向が今後も続くことは、疑いの余地はありません。
白血球の中のリンパ球の一種であるT細胞に発現する「PD-1」という物質と、がん細胞に発現する「PD-L1」が結び付くと、T細胞はがん細胞への攻撃をやめてしまいます。その結びつきを遮るのが、免疫チェックポイント阻害薬=抗PD-1抗体です。
ところが、「抗PD-1抗体」が効かなくなったら……。ESOM2017では、早期の臨床試験ながら、「抗PD-1抗体」が効かなくなったメラノーマの患者に「抗LAG3抗体:PD-(L)1とは別の免疫チェックポイント阻害剤」を併用したところ、強い抗腫瘍効果が得られたという報告がもたらされました。
このことからわかるのは、PD-1/PD-L1の経路以外にも、他のシグナルを刺激したり抑制したりすると、私たちがもつ抗腫瘍免疫を活性化できるということです。
体の免疫機能を活性化させ、低下している防御力を増強させる、新たな「免疫賦活物質」も加わり、数多くの臨床試験が現在進行しています。とても期待される領域なのです。