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【連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第38回】

喘息治療薬「テオフィリン」の大量服用は生命に危険が及ぶ急性中毒症を招く 

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テオフィリンは気管支の筋肉を弛緩させることによって、きわめて強力な気管支の内腔を拡張させるため、特に喘息発作時に有用である(depositphotos.com)

 現在も喘息治療薬として広く用いられている「テオフィリン」は、「カフェイン」と同様、「キサンチン誘導体」に分類され、両者の化学構造式はきわめて類似している。

 テオフィリンは気管支の筋肉を弛緩させることによって、きわめて強力な気管支の内腔を拡張させるため、特に喘息発作時に有用である。日本での代表的商品では「テオドール」が広く行きわたっている。

 以下、私が数年前に経験した、自殺目的で致死量以上のテオフィリン製剤を服用した症例について紹介する。

気管支喘息で治療中の患者がテオフィリン製剤を大量服用

 28歳女性。10年間ほど気管支喘息や統合失調症を患い、かかりつけ医院でテオフィリンや向精神薬などによる薬物治療を受けていた。

 ある日、自宅にて、かかりつけ医院で処方されていたテオドール(200mg/錠)200錠を服用して自殺企図した。向精神薬は服用しなかった。数時間後悪心、嘔吐、頭痛、腹痛、下痢、動悸を認め、さらに全身の筋肉がピクピクし、四肢のしびれ感を訴えた。

 服用後、約7時間して夫が帰宅し、妻の異常に気づいた。救急車を要請し、服用後9時間10分経過して、病院に搬送された。意識レベルはやや混濁しており、血圧は82/42 mmHgと低下、脈拍は158/分と著明に増加し、心室性不整脈を認めた。

 患者自らテオフィリン製剤を大量服用して、自殺企図したことを告白。急性テオフィリン中毒を疑い、ただちに同剤の血中濃度を検査した。重症中毒濃度とされる80~100μg/ml以上をはるかに超える195.9μg/mlを呈していた。

 服用後、既に長時間を経過していたため、本中毒の治療で極めて有用な直接血液灌流(患者の静脈内にカテーテルを挿入し、体内の血液を取り出して、中毒の原因となる物質を回路内のカラムに吸着させ、浄化された血液を再度体内に戻す血液透析に類似した治療法)を3時間施行した。血液灌流による治療後の濃度は、46.2μg/mlと低下し、治療した6時間後には、喘息患者の有効治療領域である10~20μg/mlである15.3μg/mlまで低下した。悪心、嘔吐、頭痛、動悸などの諸症状も次第に緩和し、不整脈も消失した。

 入院後、3日目に退院した。ところがその6日後、発作的に再度テオドール30錠(6g相当)を服用し、3時間後に前回と同じような症状を呈し、救急搬送された。搬送時血圧は88/52 mmHg、脈拍は126/分であった。血中濃度は、前回とは異なり、服用後短時間しか経過していなかったため、228.1μg/mlときわめて高値であった。

 前回同様、直接、血液灌流を3時間施行したところ、終了後には63.0μg/mlと著明に低下した。翌日には18.0μg/mlと安全域濃度に回復した。入院後3日目に退院したが、その後精神科病院に入院となった。

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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