年間約1万人の妊婦が自動車事故に遭い20人弱が死亡
我が国の人口動態統計によると、不慮の事故や自他殺といった、いわゆる外因死は死亡総数の5.2%です。しかし、年齢階級別にみると「15~24歳の死原因の69.2%」、「25~34歳の死亡原因の58.2%」と多くを占めます。
妊婦の多くはこの年齢層に含まれるため、母児を守るためには外因死の予防が大きな課題です。米国では6~7%が妊娠中に何らかの外傷を負っており、また新生児の約1%は子宮内で交通事故を経験しているそうです。
また、交通事故は妊婦が受ける外傷の約70%を占め、母児ともに外因死の最大の原因になっているとのことです。
我が国では妊婦の交通事故についての包括的な調査がなく、交通事故で負傷した妊婦及び胎児の数は不明です。近年、札幌で行われた調査では「2.9%の妊婦が自動車乗車中に交通事故に遭遇」したそうです。
また、妊婦を対象にした一般雑誌では、独自の調査をもとに、「妊娠中に自動車事故に遭遇した人は3%」と記載されていました。したがって、妊娠中に交通事故に遭遇する割合は、少なくとも3%以上と考えて良いようです。
「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」によると、「年間約1万人の妊婦が自動車乗車中に交通事故に遭遇し、20人弱の妊婦が死亡」すると推定されています。
また、米国のデータをもとに2008年に行った私の推計では、「交通事故で負傷する妊婦は年間に5000~7000人、死亡する妊婦が20~40人程度」。近年、交通事故死傷者数は減少しているので、この数字はやや減っているでしょう。とはいえ、妊婦の安全のためには、交通事故予防も大きな課題です。
カナダでの統計調査では……
カナダで2006~2011年に出産した18歳以上の女性約51万人を対象にした研究があります。この研究で、妊娠前3年間、妊娠中、産後1年間のそれぞれにおける自動車運転中の事故率が計算されました。
妊娠前3年間を平均すると、この時の事故率は1000人当たり4.6でした。しかし、妊娠中期には6.5となり、妊娠前に比べて妊娠中期に事故を起こす危険性は42%も増加していました。その後、出産直前には事故率は2.7と低下し、産後の1年間も2.4と、妊娠前よりも明らかに低下していました。
なぜ、妊娠中期に事故率が上がるのか、詳しくは分かっていません。しかし、妊娠することによる嘔気、全身のだるさ、眠気(睡眠不足なども含む)、注意力低下が原因とも考えられています。
妊娠中期頃を迎えた方には、「自動車の運転に注意してください」と声を掛けることが事故の予防につながります。そして、お腹の中の赤ちゃんの安全にもつながるのです。