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【連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第9回】

人間とパンダの食の進化は真逆? 本来は「食べていなかった」ものが主食になった

人間は肉食なのか草食なのか?それとも穀物食なのか?

 さて、人間は「草食」なのでしょうか? 「肉食」なのでしょうか? それともずっと昔から白米や小麦を食べてきた「穀物食」なのでしょうか?

 人間の消化管には巨大な「細菌培養装置」は存在せず、消化管の構造だけを見るとクマに近い消化管を持つ「肉食のサル」です。猿の中で言えばヒヒに似ています。

 実際に100万年以上続いた石器時代の人類は、どのようなものを食べていたでしょうか? 狩猟採集生活で簡単に手に入るものは小動物、魚、貝、昆虫などです。また、草原に進出した人類が最初に積極的に食べたものは、ライオンやハイエナなどの肉食獣が食べ残した獲物の骨髄や脳であるとも考えられています(人間の手の構造は石を握りしめて振りかざすのに適した構造となっていますが、骨を砕いて骨髄や脳を取り出すためにこのようになったと考えられます)。

 一方、セルロース分解装置を備えていない人間の消化管構造で植物を生で食べるのはやはり難しいのです。穀物(野生種の麦類)や堅果(どんぐりなど)に関しては火を使えるようになるまでは、あまり効率よく食べることはできなかったと考えられています。

 それに野生の穀物類は食べ物のごくごく一部でしかなかったし、甘みのある果実に巡りあえるのは年に一度あるかないかの幸運なことだったでしょう。

 ですから、石器時代の人類は100万年以上にわたってずっ「肉食中心の雑食」だったのですね。パンダではない普通の熊みたいな食生活で、炭水化物は食べても最大で10%程度(昆虫や貝にある程度の糖質は含まれます)だったと思われます。

パンダと人間はともに食事を変えたが、ライフスタイルは逆方向へ

 本来、食べていなかったものを主に食べるようになった点、人間とパンダは似ています。

 パンダは本来は肉食中心の雑食であったのに、笹の葉食になりました。生き延びるために高地に逃げ、それしかなかったのでやむをえず草食になったのです。笹の葉を食べたら消化・吸収のためにゴロゴロ昼寝に専念するわけで、あのようなぐうたらで可愛い動物になってしまったのです。

 人間は本来は肉食中心の雑食であったのに、穀物中心の雑食になりました。人間も「穀物中心の雑食生活」を送ることが生き延びるために必要だったのか、あるいはそれが有利になることがあったのでしょう。

 では、そのバイアスは何だったのでしょうか? 穀物食になった結果から考えてみましょう。精製された穀物は消化吸収が簡単ですぐエネルギーにできますから、穀物食になったおかげで、人間はパンダとは逆に食事休みを短くして働き続けることができるようになりました。人間はパンダと真逆の忙しい生活を選んでしまったのです。

 せっせと働き続ける勤勉な労働者が増えて得をするのは誰だったのでしょうか? 得をする人たちが一般人に「穀物を食べてせっせと働くように」バイアスをかけ続けたことで、現代人は「穀物食が人類本来の食事である」と信じこまされている可能性はないでしょうか?

 「日本人はずっとおコメを食べて来た農耕民族ですから毎日三回ご飯を食べないと体を壊します」

 この言葉が科学的に正しいのか、それとも誰かにとって経済的に都合が良かっただけなのか、もう一度よく自分の頭で考えてみてほしいなと思います。

※参考文献
夏井睦『炭水化物が人類を滅ぼす』(光文社新書)
島泰三『親指はなぜ太いのか』(中公新書) 

連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

神戸市垂水区 名谷病院 内科勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

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