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【連載「死の真実が〈生〉を処方する」第31回】

日本人の約3割が「お酒を飲まないのに脂肪肝」 10年間で患者が約3倍に増加

お酒を飲まない人でも命を落とすことに……

 NAFLDは、単に肝細胞に脂肪が蓄積した「非アルコール性脂肪肝」の状態から、さらに肝臓に炎症が起こり、炎症細胞が蓄積する「非アルコール性脂肪肝炎」に進行することがあります。

 そうなると、炎症によって肝細胞が破壊され、徐々に線維化してしまいます。肝臓の細胞が線維に置き換わると、元に戻らなくなり肝硬変に。肝硬変になると、高率で肝細胞がんを合併するか、または肝硬変が進行して肝不全で命を落とすことになります。

 米国やドイツの病院の研究結果では、NAFLDの患者の死亡率が高いことが立証されています。肝臓がんや肝不全に至るだけでなく、心血管や脳血管の病気など、さまざまな疾患を合併することも多いからです。

 このような背景には、遺伝的要因が関与しているといわれています。しかし、肝臓への脂肪蓄積を予防する生活に改善すれば、病状の進行を防ぐことはできます。

NAFLDを改善させる薬はない

 NAFLDの患者さんがよくおっしゃるのは、「何か脂肪を取り除く良い薬はないですか?」。もし溜まった脂肪を取り除いてくれる薬があれば、皆さんが愛用されるでしょう。ところが、このような都合の良い薬はありません。

 2014年にヒューマンサイエンス振興財団が医師を対象に行ったアンケート調査があります。そこでは、60の病気を挙げ、それぞれに対して「薬剤の貢献度が高いか/低いか」についても調べられました。

 その結果、「効く薬がない・薬剤があまり治療に貢献していない」と答えられた病気の第5位にNAFLDがランクイン。ちなみにNAFLDを上回る(より効かない)病気は、アルツハイマー病や膵臓がんなどです。それほどNAFLDは薬で治せない病気なのです。

 NAFLDによって早期に命を落とさないようにするためには、まず生活習慣の改善が必要です。

 肥満の人は、体重の7%減量を最初の目標にしてください。肥満でない方も、有酸素運動を行っていただきたい。1日30分以上の中等度の運動を週5回行うのがお勧めです。軽いジョギングなどでも結構です。

 糖質はご飯などの穀類から摂取して、間食を控えます。脂質も魚類から摂取し、肉類や乳製品、マーガリンを控えるのがよいようです。また、大豆製品や食物繊維を多く摂取することも推奨されています。

 有効な薬がないのだから、自分で治さなくてはいけません。お酒を飲まない人も、<沈黙の臓器>と呼ばれる肝臓をいたわってください。もちろん、お酒を飲む人は、なおさら肝臓をいたわる生活習慣を心がけてほしいものです。

連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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