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【シリーズ「ゲノム編集」第1回】

体外受精で「母親」「父親」「女性ドナー」の3人のDNAを持つ男児が誕生!

日本の識者たちの見解は?

 新聞各紙の報道によれば、さまざまな見解がある。

 日本産科婦人科学会の苛原(いらはら)稔倫理委員長は「ミトコンドリア病の発生頻度は人種によって異なり、安全性も科学的に証明されていない。国内の臨床応用は、倫理的にコンセンサスは得にくい。基礎研究に留めるべきだ」と語る(毎日新聞)。

 埼玉医科大学の石原理教授(生殖医学)は「重篤なミトコンドリア病患者が出産できる唯一の解決法だ。第三者のミトコンドリアから引き継ぐDNAはわずかだが、不明な点も多い。ミトコンドリア病は成長後の発症リスクもある。影響を長期的に見極める必要がある」と指摘する(毎日新聞)。

 慶応大学の山田満稔助教授(産婦人科)は「卵子の核を入れ替えると、異常なミトコンドリアがわずかに持ち込まれ、増えるリスクもある。安全性や長期的な影響は不明なので、予後を見なければならない」と述べる(毎日新聞)。

 さらに、北海道大学の石井哲也教授(生命倫理)は「卵子の提供体制や本人へのインフォームド・コンセントなど、厳密なルールが守られるべきだ」と強調する(日本経済新聞)。

 安全性はクリアしているのか? 生命倫理の壁を乗り越えられるのか? 不妊治療の可能性を拡げるのか? 社会的なコンセンサスは得られるのか? 目前に立ちはだかっているのは、生殖補助医療の生々しい現実だ。

 このような先見的なバイオテクノロジーを駆使した不妊治療は、難病に悩む女性たちのまさに救世主だ。確かに科学のロバストネス(堅実性と信頼性)は、一夜にして崩壊もし、補強されもする。

 しかし、凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時だ。試練や逆境を超えたとき、新しい地平が見えてくる。論より証拠。科学的な知見の積み重ねだけが未来の地平を切り拓くにちがいない。
(文=編集部)

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