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【シリーズ「これが病気の正体!」第6回】

【閲覧注意】ヤケドから足を切断! 糖尿病の怖さは合併症にある

治療せずに放置していた50代男性が足を切断

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 患者は52歳の男性。20年来の糖尿病歴があるが、無治療の状態だった。写真(来院時の右足)でわかるように、右足の第2趾(人差し指)には動脈硬化による血流障害(糖尿病性壊疽)が認められる。

 ある冬の寒い日、ファンヒーターで足を温めている間にひどいやけどを負ったことに気づかず、右足の裏が潰瘍化してきたというわけ。糖尿病性神経症が原因で、熱さや痛さをまったく感じない状態だったことが分かる。病院には行かず、自分で消毒していたとのこと。

 1週間後、意識状態がおかしく、「体が冷たい」とのことに家族が気づき、家族に連れられて来院した。右足底部に深い潰瘍(III度熱傷)があり、傷から入った細菌が足全体に急激に広がって「壊死性筋膜炎」をきたしていた。

 さらに、細菌が全身の血液を回って「敗血症」を引き起こし、ショック(血圧低下)とそれに伴う呼吸障害(ショック肺)に至った(体が冷たいのはショックの症状)。命に関わる緊急事態である。抗菌剤の大量点滴とともに、6日目に右下腿以下が切断された。

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 右足の裏にやけどによる深い潰瘍形成を認める。右足の第2趾(人差し指)全体と第1趾(親指)の先端部には「糖尿病性壊疽」(動脈硬化による血流障害)が観察される。細菌感染に弱く、動脈硬化症によって血流が悪いことが病態を助長した。

 足の裏の「壊疽」から侵入した細菌が「壊死性筋膜炎」をきたし、命に関わる「敗血症性ショック」へと至った。糖尿病の管理の悪い(高血糖が続く)場合に生じる恐ろしい病態である。

 結局、患者は下肢を切断することで生命危機を脱し、現在リハビリ中である。このように、糖尿病性神経症を有する患者には十分な「フットケア」(外傷や熱傷への注意)が求められる。ちょっとした傷からも感染や循環障害が増悪することがありうるからである。

 糖尿病では、末梢神経障害による知覚麻痺、動脈硬化による血流障害、易感染性に加えて、網膜症による失明で足にケガをしやすい。神経障害による筋力低下から転びやすく、さらに、腎症による慢性腎不全でケガの治癒力が低下することが病態に拍車をかける。

 糖尿病は本当に怖い病気だ。釘を踏み抜いても気づかないことがある。水虫も治りにくい。足のケアはとくに肝要なのだ。しっかり治療して血糖値をコントロ-ルできれば、このような病態は防げることが多い。“知識”というワクチンがとても有効なのである。

 この症例の後日談を紹介しよう。患者は命に関わる事態に深く反省し、遅まきながら、しっかりと糖尿病の治療を受けるようになった。血管を収縮させるタバコもやめた。そして、歩行訓練(リハビリテーション)に励むようになった。

 担当のリハビリ医が義足をつくって、自力歩行を促進させようとしたのだが、切断した下肢の骨の断端が問題となった。ギザギザに切り取られた足の2本の骨が皮膚に当たって、体重がかかると痛くてリハビリが進まなかったのだ。

 緊急手術の最大の目的は「救命」にあり、命が助かったあとのリハビリまで、救急医の気配りは及ばなかったようだ。急いでノコギリで切り取った骨の断面が平坦ではなかったのである。

 ちなみに、切断した位置の皮膚の感覚は正常で、しっかり痛みを感じるのは少し皮肉だ(末梢神経障害は末端近くが一番ひどく、根元に近いほど異常がでにくい)。救急医には、どんなに緊急事態でも、命が助かった後のことまで配慮してほしい。骨はキレイに切ってね! なお、義足は何度か作り直し、痛みが少ない“作品”が何とかできたと聞く。

シリーズ「これが病気の“正体”!」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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