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【連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」第11回】

被災者や末期がん患者に「頑張って」は励みにならない? 声かけのポイントとは?

医療従事者の患者への「同情(sympathy)」は禁物

 ただし、医療従事者の場合、患者さんに対する同情(sympathy)は禁物でであり、共感(empathy)が重要になる。患者さんを自分の配偶者、恋人や子どものように感じてしまうと、冷静かつ客観的な判断ができなくなるからだ。適切な治療も望めないだろう。

 外科医が肉親の手術をすることはまずない。医療従事者にとって必要なのは、相手の立場に立って考えること、相手の目線にあわせて見つめること、つまり共感(empathy)である。

 ノンフィクション作家の柳田邦男氏が著書『この国の失敗の本質』で主張していた「2.5人称の視点」も、共感(empathy)とほぼ同じニュアンスといえる。大切な人である「あなた」と乾いた第三者である「彼・彼女」の中間的な視座が「2.5人称の視点」である。

 医療従事者は、このような視点から患者さんに接しなければならない。柳田氏は、被害者、病者、社会的弱者の立場に寄り添い、その身になって考える職業倫理を身につけてほしいと私たちに訴えかける。

 また、以前、アナウンサーだった故・絵門ゆう子さんの話を聞く機会があった。当時、エッセイストとして乳がん患者でありながらも元気に活躍していた彼女は、医学ではよく「ヒト」と記載するが、臨床医には「人」として患者に接してほしいと訴えていた。

 この説得力あるメッセージの一方で、病理医には「第三者」の科学的な視点から「ヒト」として、淡々と冷静に説明をしてほしいともおっしゃっていた。病理医は、医療現場での第三者的立場をとりやすいことは事実だ。「病理医による病理診断の説明」が必要となるゆえんである。

 ただし、患者同士が支え合う(ピア・サポート)の場では、ピア(仲間)が他の同病患者を支援するとき、「痛み」を我がものに感じ、同情し、一緒に涙する、「sympathy」が大きな支えとなる。また、仲間のために冷静に状況を分析し、アドバイスできる援助、「empathy」も必要だ。

 今回のような大きな災害に見舞われた方々のことを思うとき、いかに寄り添い、声をかえるべきなのか、その難しさを痛感する。


連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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