MENU

【シリーズ「最新の科学捜査で真犯人を追え!」第14回】

首つり自殺か? 自殺を偽装した絞殺か? 死因の決め手は「吉川線」を見ればわかる

吉川線を見れば、首吊り自殺か絞殺による他殺かは一目瞭然!

 絞め殺された絞死かどうかを判定する目安になるのが吉川線だ。

 大人気TVドラマ『科捜研の女9』最終話。首吊り自殺か絞殺かが判然としない死体が上がる。死体の首に残った索条痕は水平でなく、斜めに残っていたことから、榊マリコは悩む。ところが、死体の首をよく精査するとわずかに掻きむしったような痕が……。

 吉川線は、紐やロープなどで首を絞められた場合に、被害者の首に残されるひっかき傷の跡だ。被害者が紐や犯人の腕を解こうと抵抗して、首の皮膚に爪を立てたり、掻きむしったときに生じる。

 つまり、吉川線を見れば、自分で首を吊った自殺か、絞殺による他殺かが判明する。大正時代に警視庁鑑識課長を務めた吉川澄一(1885~1949年)が「ひっかき傷は他殺の証拠」と学会発表したことにちなむ。

 法医学では、紐やロープを頸部に巻きつけて頸部を水平に圧迫し、気道を閉塞させて呼吸できないようにすることを絞頸(こうけい)、絞頸により死亡を絞死、絞頸による他殺を絞殺と呼ぶ。

 だが、絞頸による自殺(自絞死)は稀だ。自絞死するためには、結び目を作ったり、機械的な動力を利用して絞め上げたりするなど、意識を失ってもロープが緩まない巧妙な工夫や仕掛けがいるからだ。

 兵庫県尼崎市で発覚した連続殺人死体遺棄事件の角田美代子容疑者(64)は、2012年12月、県警本部の留置場で自殺を図った。報道によれば、長袖Tシャツの両袖を首に巻き付けたまま、首を絞め続けた窒息死。呼吸ができない苦しみに耐えながら、徐々に死に至ったと推定される。凄惨な殺人事件が生み落とした悲劇の末路だが、自絞死はきわめて困難であることに変わりはない。

 ちなみに、手や腕で頸部を圧迫することを扼頸(やくけい)、扼頸による死を扼死(やくし)、扼頸による殺人を扼殺(やくさつ)という。扼殺は、喉にある舌骨、首、胸などを骨折している場合が少なくない。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

関連記事
アクセスランキング
専門家一覧
Doctors marche