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【連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」第7回】

「人工的な避妊は罪」のカトリック社会をオギノ式避妊法で動かした荻野久作

ローマ法王庁が唯一認めた「オギノ式」

 一方、避妊の許されないカトリック社会では、自然に逆らわない「オギノ式避妊法」がもてはやされた。ローマ教皇ピオ11世は、1930年12月の回勅でこう述べた。

 「一時的な事情あるいはある種の肉体的危険による自然的な理由のために、新しい生命の出産ができない場合、夫婦が健全な自然的理性に従って、その権利を行使したとしても、それを自然に反する行為として非難してはならない」

 これは、教皇が荻野学説を容認したと解釈された。言い換えれば、「オギノ式」は堕胎や人工的な避妊を自然にそむくものとして厳しく禁じてきたローマ法王庁が認めた唯一の避妊法となった。『法王庁の避妊法』(篠田達明著、文藝春秋、1991年)を読んでみよう。

 以下は、法王庁が認める自然にかなった「家族計画」のヨーロッパ人体験者の言である。

自宅前の市道は「オギノ通り」、自宅跡地は「オギノ公園」に

 「人工避妊から定期的禁欲に切り替えたとき、私たちの結婚生活という暖炉の煙突に詰まっていたススが、いきなり取り除かれたような気がしました」

 「私はいろいろなピルを試しました。結果は、吐き気、偏頭痛、いらだち、不満でした。そして、自分が主人から利用されるだけのおもちゃ、彼の性欲を満たすための一つのものでしかなかった、という感じがしていました。でも、この自然な避妊法に切り替えたとき、私たちの結婚生活は突然よくなりました。以前のさまざまな問題はすべて私たちの産児制限に関係があったと感じました」

 荻野は、子宮頸がんの手術術式として「荻野変法」という根治率の高い方法を普及させた業績も残している。晩年に至るまで、新潟の地で診療・手術にたゆまず従事し、新潟市名誉市民に選ばれている。

 1975年3月、新潟大学キャンパスのすぐ下にある自宅前の市道が「オギノ通り」と命名された。自宅のあった場所は現在、「オギノ公園」になっている。

連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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