「きっかけは、近所の銭湯のオヤジさん。鼠蹊ヘルニアと診断すると同時に、以前に勤務していた東京警察病院での手術・入院を勧めたところ、入院はできないときっぱり言われたのです。毎日番台に立たなければならないから、と。アメリカでは日帰り手術が多く行なわれていることを伝えると、その患者さんは先生になら手術してもらってもいいと言うのです。そこでスタッフと相談して日帰り手術に踏み切りました。モニターも酸素もストレッチャーもないという状況で、非常に緊張しながら局所麻酔による手術を1時間で終了。ぐったりと疲れました」
当初は胆石、下肢静脈瘤などの手術も行なっていたが、現在は鼠蹊ヘルニアに特化している。これまで17年間で、鼠蹊ヘルニアの手術数は7200例超、エキスパート中のエキスパートだ。なかには、他の病院で手術を受けたが再発したという患者が、紹介で来院することもあるという。
「ここまで来院される人が多くなったのには、HPに掲載していること、マスコミで紹介されたこともありますが、日帰り手術が生命保険の適用になったことが大きい。2003年頃までは外資は別にして多くの生命保険では日帰り入院は対象外だったのですが、ニーズに合わせて保険金が降りるようになったのです」
同じ志を持つ仲間と研究会を立ち上げる
開業医が行なう「鼠蹊ヘルニア日帰り手術」は瞬く間に人気を博し、同業者からも注目を集めることになった。工夫を重ねながら編み出した手術法を執行医師は2000年に日本臨床外科学会で発表。すると、全国の中堅・若手の医師からの質問が相次ぎ、毎日のようにメールをやり取りした。見学に訪れる人も増えた。
「同じモチベーションを持つ外科医の仲間と2004年に日本短期滞在外科手術研究会(JSSSA=Japan Short Stay Surgery Association)を立ち上げ、私は代表世話人に任命されました。翌05年3月には第1回目の学術総会を開きましたが、医師や看護師らがなんと全国から140名も集まり、"日帰り手術"をキーワードに開業外科医のネットワークが構築されました。その後も、研究会は全国で開催。今年は6月に沖縄で行ないました」
手術などは病院に任せ、開業医は外科医であっても開業したらメスを置くというそれまでの常識に、この会は大きな風穴を空けた。
(文=編集部)