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【連載第9回 死の真実が“生”を処方する】

東京五輪の"おもてなし"を支えるタクシー業界が高齢化! 負担のない環境整備を

 国土交通省の調査によると、タクシーによる重大事故のうち「運転者の健康状態」に起因するものは5.8%でした。ところがこの数字は、自主的な報告に基づいているため過小評価されています。実際には、約1割が運転者の体調変化に起因すると考えられます。

 さらに、私の調査では、報告されたタクシー運転中の体調変化の原因は、脳血管疾患が42.9%と最も多く、心疾患が30.0%、大動脈疾患が7.1%でした。これらに共通している危険因子は「高血圧」です。

 日本における高血圧症の有病者の割合は、男性が55.7%、女性が42.5%です。60歳以上で見ると、男性が73.8%、女性が66.3%とさらに増えます。タクシー運転者の高齢化が進んでいるので、何らかの病気にかかっている人は多いのではないでしょうか。

 運転中に体調変化が生じると高い確率で事故につながり、乗客や歩行者などを危険にさらすことになります。これでは"安全なタクシー"とは呼べません。まずは自分の健康状態を良好に保つこと、病気があればきちんと医療機関に通院して薬を服用することが重要です。

タクシー稼業はストレスの多い仕事?

 タクシー運転者の業務上のストレスには、緊張や疲労、日頃の運動不足や食生活の乱れ、乗客の安全の確保とサービスのための精神的な負担などが挙げられます。

 こうしたストレスに起因して、日頃の血圧が正常範囲にあっても運転中には血圧が10~20㎜Hg上昇。走行速度を上げると、さらに血圧が上昇するといわれています。

 また、深夜を含む長時間の不規則な勤務による睡眠不足や、休養不足による過労状態は、生体の回復機能を低下させ、さまざまな病気を発症しやすくさせます。このように心身共に負荷がかかる業務を行うわけですから、タクシー運転者は一般の方以上に健康に配慮していただきたいものです。

 タクシー運転者のなかには、体調不良にもかかわらず無理をして運転を続けている方もいるでしょう。その背景には、ノルマや賃金の問題があるのかもしれません。しかし、それがいかに危険なことか想像してください。

 体調不良時の無理な運転を避けるには、運転者が身体的にも経済的にも負担を感じることなく業務に従事できる環境の整備が必要です。"世界一安全なタクシー"で、外国からの訪問者を迎えてもてなすには、タクシー運転者が健康に就労できる環境を国全体で確保・維持することが急務でしょう。


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一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会法医認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(理事)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)など。

連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

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