GM食品大国で熱い反対運動betto rodrigues/shutterstock.com
消費者は自分が口にする食べ物が遺伝子組み換え(GM)食品であるかどうかを知りたいと思っても、その実態はほとんど知りえない。現状では日本も含め、世界で64カ国が表示義務を課してしるものの、その表示の方針やレベル、方法は世界各国で大きく異なる。
規制の厳しいEU(欧州連合)では、基本的に遺伝子組み換え技術を用いている食品はすべて表示の義務があり、表示が免除される偶然の混入率は、0.9%未満と非常に厳しい。しょう油や食用油などDNAやタンパク質の検出しにくいものの表示についても、表示義務の対象となり、「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換え由来」と表示しなければならない。
一方、日本ではどうか。表示の義務は、原材料の上位3品目についてのみ。また上位3品目内であってもその重量が全体の5%以下であれば表示義務の対象外。しょう油や食用油などDNAやタンパク質の検出しにくいものの表示については、加工過程でたんぱく質やDNAが分解されるために検出が不可能、あるいはトレーサビリティ法が導入されていないことから遺伝子組み換え作物由来の原料であるかどうか確認不可能、などの理由から表示対象外となっている。
偶然の混入率にいたっては、日本の場合は5%に達しなければ、混入を容認し、さらにその商品に「遺伝子組み換えではありません」と表示することさえ許されている。
GM食品メーカーが膨大な予算を使い表示義務を回避
さて、遺伝子組み換え食品の一大供給国である米国の場合はどうか?
米国にはGM食品の表示の義務がないため、消費者は自分が本当は何を食べているのかを知るすべが無いのだ。
米国の消費者はGM食品についてそんなにも無関心でいるのか? 『New York Times』2013年7月23日付の世論調査の記事によると、米国人の3/4がGM食品の健康影響に対して懸念を抱き、実に93%が表示を支持したという。それにもかかわらず、まったくの表示を義務づける規制が無いのはどうしたことか。
実は、アメリカの中でも環境や政治参加への意識が高いとされるカルフォルニア州で、2012年11月、GM食品の表示を求める住民投票(Prop.37)が実施され、僅差で表示法案が否決された。
ほとんどの国民が表示の義務化を望んでいるにもかかわらず、なぜ住民投票で否決されるのか? 事前のアンケート調査では表示賛成派が圧倒的多数だったとされているが、反対派が莫大な資金を投じてメディアや住民の決定を覆したとされている。
もちろんこの反対派とは、筆頭がモンサント社で、そのほかにもデュポン、ペプシコ、コカ・コーラなど遺伝子組み換え食品を生産・供給する側だ。このときキャンペーンには約46億円が投じられ、一方で、消費者側のキャンペーの資金は約9億円だったとされている。
"カネに物言わせて"はどこの国のどこも案件でも大して変わらないということか。しかし、このカリフォルニア州の住民投票で明確になった巨大企業による消費者無視の態度は、表示義務化を求める運動を全米へと拡大させ加速させることになる。
ニューヨーク、マサチューセッツ、コロラド、コネチカット、フロリダ、ハワイ、イリノイ、ニューハンプシャー、ペンシルベニア、ミネソタ、ニュージャージー、ニューメキシコなど全米30州以上で、表示義務化を求める運動や法案提出が相次いだ。
しかしそのつど、GM食品の生産・供給勢力は、莫大な資金に物を言わせ、政治力を行使し、表示を求める運動の弱体化や法案の撤回、審議の中断、見送りなどを勝ち取ってきた。
ところが、2014年4月、バーモント州で表示義務化法案が州議会を通過、全米で初めて消費者側が勝利することとなった。奇跡とまで言われるこの法律の施行は2016年7月。この間に生産・供給側の企業は、この法案を無効にする連邦法の制定を画策しているといわれる。まだまだ表示義務を廻る戦いは続いていく。
こうした戦いのさなか、有機製品主体の食料品スーパーチェーン店大手Whole Foods Market社(GM自主表示)、アイスクリーム販売大手Ben & Jerry's社(GM成分自主表示と段階的な排除)、米国外も含め1,400カ所以上に店舗展開するメキシカンファストフード・レストランのチェーン店Chipotle(GM成分自主表示)などの動きもあり、僅かではあるがこうした全米の消費者の戦いに成果が現れ始めている。