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【連載第3回 遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?】

遺伝子の異常を調べることで病気の発症リスクを診断する

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DNAの4種類の塩基配列(A=アデニン、G=グアニン、T=チミン、C=シトシン)によって遺伝情報が決まる shutterstock.com

 世界各国の企業がしのぎを削る「遺伝子検査ビジネス」だが、医療機関で行われる遺伝子検査とDTC(消費者向け)遺伝子検査は根本的に違う。このことを理解していただくために、遺伝子検査をもう少し俯瞰し、遺伝子についても理解しておきたい。

 ヒトの体は約60兆個の細胞でできているが、1個の細胞の中に核があり、核の中に染色体が組み込まれている。男性・女性の性を決定する1対の性染色体と、男女共通の22対の常染色体の計23対(46本)で構成される染色体は、二重らせん構造をしたDNA(デオキシリボ核酸)が何重にも折り重なる構造になっている。

 DNAは4種類の塩基配列(A=アデニン、G=グアニン、T=チミン、C=シトシン)を組み合わせた約30億対の分子構造を持ち、その中に塩基配列の異なる約2~3万の遺伝子がある。それぞれの遺伝子はDNA上の決められた位置に点在し、DNAの命令によって、約20種類のアミノ酸やタンパク質が合成され、肌や髪の毛の色などが決定される。

 タンパク質が合成される時、RNA(リボ核酸)は、DNAの必要な塩基配列だけを正確に読み取り、核の外に出て細胞質の中でタンパク質を作る。つまり、命令の書かれたDNAの塩基配列と、それを正確に読み取るRNAの2種類の核酸の働きによって、細胞の形、数、性質、機能などが決まる。

遺伝する異常と遺伝子ない異常

 したがって、DNAやRNAの塩基配列に異常があれば正しいアミノ酸やタンパク質が作れず、がん細胞のような異常なタンパク質が作られる。DNAやRNAの塩基配列に異常があるのかを分析したり、どのような病気の発症リスクがあるのかを診断するのが遺伝子検査の目的だ。

 DNAの異常には、塩基配列の1個が正常と違う塩基に入れ替わり正常でないタンパク質が作られる「点突然変異」、塩基配列の一部がなくなり正常なアミノ酸の順序が異なってしまう「欠失」、正常な塩基配列に余分な塩基が入り込み塩基配列の順序が狂う「挿入」の3種類の異常がある。

 わずか1個の塩基配列の異常で、正常でないタンパク質ができる可能性があるのだ。このような遺伝子異常を親から子孫に伝える変異を「生殖細胞系変異」(遺伝病など)、生後に発生した変異で子孫に伝わらない変異を「体細胞遺伝子変異」(がんなど)と呼ぶ。

 遺伝子検査を行う場合は、どの遺伝子に異常があるのかを推測した上で、特定の遺伝子だけについて分析・解析を行う。通常の検査では血液細胞が使用されるが、細胞から得られるDNAやRNAはごく微量だ。そのため、少量の細胞からDNAやRNAを容易かつ迅速に採取できるよう1980年代に開発されたのが、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)という遺伝子増幅法だ。

 PCR法では、1回の増幅サイクルで遺伝子が倍に増え、計算上では22回行うと100万倍に増幅される。核酸が持つ塩基の相補性(アデニンとチミン、グアニンとシトシンが特異的に結合する性質)を活用し、同じ生物種の同じ遺伝子を検出するハイブリダイゼーション法や、特定の塩基に対応するDNA断片を合成するシークエンス法も、PCR法で増幅した遺伝子を使う検査法だ。

 では、このような医療上の遺伝子検査とDTC遺伝子検査は、根本的に何が違うのだろうか?

 次回は、DTC遺伝子検査の問題点に迫ってみよう。


佐藤博(さとうひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。
連載「遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?」バックナンバー

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