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【連載「心に響く闘病記ガイド」第1回 】

大腸がん闘病記 外科医が「がん」になり初めて「切られる側」の心境を知る


『がん六回 人生全快――現役バンカー16年の闘病記』(関原健夫/講談社文庫)

 本書は、社会の第一線で活躍し続ける現役の銀行役員が明かす闘病記。日本興業銀行ニューヨーク支店に勤務していた1984年、39歳でS字結腸がんと診断された関原健夫さん。現地で手術を受けるものの、帰国後に肝臓や肺に転移。12年間に計6回の手術を受けることになります。本書は「大腸がんという病とどう対峙したらいいか」や「医師との信頼関係をどう築くか」など、患者に必要な基礎知識を教えてくれます。関原さんは、仕事で困難に立ち向かったときのように、自身の「がん」にも立ち向かい、のちに、日本対がん協会常務理事になられました。


『破ガン一笑――笑いはガンの予防薬』(南けんじ/主婦の友社)

 漫談家・南けんじさんは、1991年に国立がんセンターで大腸がんと診断され手術をしますが、1996年に肺に転移。小型の携帯ポンプによる抗がん剤治療を受けながら、週末には病院を抜け出し、高座に上がって病気をネタにお客さんを笑わせていました。南さんは、入院中も看護師さんを相手に冗談を言ったり、夜中に脈を取りに来た看護師さんに、寝たふりをしていきなり手をつかみ、悲鳴を上げさせるというセクハラめいたこともしたり......。そんなことをしても決して憎めない、芸人気質が魅力的です。


『さよなら さよなら さようなら』(田中美智子/あけび書房)

 元国会議員の田中美智子さんは、政界引退後、81歳で大腸がんを発症。「大腸がんで、もう手遅れです」「末期がんですか?」「いや、末期のちょっと手前です」という主治医とのやり取りがあり、「死ぬ前にエッセイを1冊書きたいのですが、残された時間は?」と訊くと、「大変お気の毒ですが、本を書く時間は、もうありません」と主治医は明言。6時間の手術を受け、ストーマ(人工肛門)となるのだが、半年たっても1年たっても死なない......。田中さんは「案外、ガンって、なかなか死なないものなのかねぇ」とボヤきながら本書を書き上げました。さらに、本書の続編『まだ生きている』(新日本出版社)のみならず、3冊目となる『今日はなん日、なん曜日』(同前)も上梓。田中さんの本には病気に関する情報は少ないのですが、「こういう性格の人だったら、そう簡単に死ぬわけない」と思えてきます。


『がんフーフー日記』(川崎フーフ/小学館文庫)

 本書は、ブログから生まれた大腸がんの闘病記。本書の次のような記述があります。「本当に怖いことがあるとして、目を塞いでその場にしゃがみこむ人と、すべてが見渡せる煙突の上に昇ろうとする人......二種類の人がいて、当然どちらが正しいとか間違っているではなく、ただただ対処法が違う」。ここで「煙突に昇る」というのは、病の治療法や病が日常生活にもたらすものなど、さまざまな情報への渇望も示唆しているのだと思います。全ての患者が「自身の病について知りたいと思っている」と想像するのは早計と言わざるを得ないでしょう。



大腸がん闘病記 外科医が「がん」になり初めて「切られる側」の心境を知るの画像1

星野史雄

星野史雄(ほしのふみお)
東京家政大学非常勤講師。1997年、妻が乳がんで亡くなったことをきっかけに闘病記を集め始め、翌年、闘病記専門古書店「パラメディカ」を開店。自信も2010年に直腸がんが見つかり、手術。大腸がんの闘病記を過去に100冊以上読んでいた知識が、自身の闘病にも役に立っている。共同編著に『がん闘病記読書案内』(三省堂)。自らの闘病体験を記した『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』(産経新聞出版)がある。
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