無視できないプラセボの効果と上手な付き合い方
我々医師が診察の対象としているのは症状を有しているもしくは検査で異常を示す患者が多い。そのため薬は我々の管理のもとで病院からの処方薬を用いることが大半である。つまり私の場合は疾患を有していない患者はもちろん、軽微な症状を有する患者にもこちらからサプリメントを積極的にお勧めすることはほとんどない。
しかし例外として、次のようなケースを挙げたい。
ある患者が血圧と血糖値の記録を見せてくれた。それを見るとサプリメント類を開始した時期と一致して血圧は下がり血糖値もいくらか改善していたのである。本来そのサプリメントからは期待できない効果がみられていたのである。患者は嬉しそうにそのサプリメントによる効果を主張しており、これからもサプリの服用を続けたいという。薬品には極めてまれに起こりうる副作用も存在するのだから、通常想定しないような「良い効果」もないとは言い切れない。ただ多くのケース同様このケースもプラセボ効果であると考えられた。
プラセボ効果とは,薬理学的作用が期待できないと考えられる偽薬が投与された場合に何らかの臨床的効果が得られることである。(臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 2009, 40 (4) p.145)もしかしたら『私は今、せっかく高血圧や糖尿病に効くかもしれない薬剤を開始したのだから、それらを悪化させないような生活を心がけよう』というような意識、心理学でいうホーソン効果が働いていたのかもしれない。 ( https://dot.asahi.com/aera/2017042100027.html )
このような効果は実際の直接的な薬理作用を示している訳ではないので微々たる効果と思われるかもしれないが、実は医学研究でも無視できないほどの効果を示すことがあるのである。(臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 2009, 40 (4) p.145)
私はこの効果を目にして、サプリメントをある程度続けてみる許可を出した。そのサプリメントが安価であり注意すべき副作用も存在しなかったことも理由である。しかし何より本来の治療を継続することに対する良い動機づけとなるのならサプリメントを治療の補助(supplement)として続ける価値は十分あると判断した。
もしあなたが現在使用中の効果を示している健康食品などが実はプラセボなのかと思わせてしまったらお詫びを申し上げたい。しかし治療が上手くいっているとすればそれは事実なのだから迷わず治療を継続してほしい。そして日頃の疾患管理をしている主治医にまだ市販薬やサプリメント類の報告をしていない場合は一度報告、相談をしていただいて本来の治療の妨げになっていないことを確認していただきたい。
(プライバシー保護のため実例を一部改編しています。このコラムは個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではありません。)
(文=藤川達也)
藤川達也(ふじかわ・たつや)
三豊総合病院総合診療内科部長
1998年岡山大卒。米国ハーバード医科大附属ベスイスラエルデーコネス病院リサーチフェロー、市立備前病院、清恵会病院などを経て現職。
※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年1月20日より転載(http://medg.jp/mt/)