シトリン欠損症の人は学校給食の糖質でも死に至る可能性が
糖質を普通に食べたら命に危険が及ぶ病気の人もいます。尿素回路酵素異常症の一部のシトリン欠損症です。日本人の場合、1万7000人に1人の割合で発症します。この体質の場合、細胞質とミトコンドリアの間でのアミノ酸のやり取りがうまくいかないために細胞質にNADHが貯留して抗アンモニア血症を引き起こしやすいのですが、糖質を食べるとそれが迅速に進みます。
シトリン欠損症の人の多くは、新生児期に代謝不全で、新生児黄疸になります。しかし、程度が軽い場合、黄疸が改善して見つからないことがあります。このようなお子さんは、離乳食の段階から肉や大豆やナッツが大好きで、甘い砂糖やごはん、パンを嫌います。糖質を食べると体調が悪くなることがわかるのです。ちょっと小柄なものの、親や周囲が好きに食べさせてくれていれば、機嫌よく健康に育ちます。
怖いのは、こういう子供が病気をして入院し、ブドウ糖を点滴されたり、学校で給食のパンを残さず全部食べるように強制されたりしたときです。そうなると糖質を処理しきれないので、高アンモニア血症に陥ります。これは脳神経系に重篤な障害を引き起こすので、様々な神経症状が発生して後遺症が残ることもあります。この状態のときに、情報がないまま救急車で担ぎ込まれてブドウ糖の点滴をされたら、状態が悪化して死ぬ可能性もあります。
2015年から行われているタンデムマススクリーニング法の導入前に生まれた方の場合、この病気は見逃されている可能性があります。肉や大豆やナッツばかり食べる偏食の方が身近にいたら、「生まれつき低糖質食が好きはよいことだ」と喜ぶだけでなく、この病気を疑って検査してみてください。一生、糖質の摂りすぎを避ける必要があります。
GLUT1欠損症の人はブドウ糖が利用できずてんかんを発症
厳しい糖質制限食であるケトン食というものがあります。これは難治性の「てんかん」の患者さんに対する食餌療法として保険適応も認められています(厳しい糖質制限食は厚生労働省から認められているというわけです)。
難治性てんかんを引き起こす代表的な遺伝子異常症に、GLUT1欠損症があります。GLUT1というのはブドウ糖を細胞の中に取り込む分子ですが、生まれつきこの遺伝子に異常がある人の脳細胞はブドウ糖を利用できなくてエネルギー不足に陥り、脳に障害が起こります。幸い、脳細胞はケトン体も使うことができるので糖質制限して脂質中心にしたケトン食が症状を抑えるし、発症も予防してくれます。
実は、てんかんの患者さんにケトン食が有効であることは、100年前には常識で基本の食事療法でした。しかし、甘いものが好きな子供にとってみれば、砂糖や小麦粉抜きのケトン食は苦痛です。このため、1960年代にカルバマゼピンなどの抗てんかん薬が開発されると「薬を飲めば大丈夫、好きなものを食べていいよ」ということになって、最近まですっかり忘れ去られていた食事療法なのです。1920年代にインスリンが開発されて、糖尿病の食事療法としての糖質制限が忘れ去られていたのと、状況はよく似ていますね。
以上、糖質制限が危険な体質の人、糖質食べすぎが危険な体質の人の説明でした。実は今回の話、以前に書いた『妊娠中に糖質制限して大丈夫?「つわり」のメカニズムと糖質制限の安全性』の話にもつながります。それについては次回に書きます。
(文=吉田尚弘)
※編集部注
4月20日付けで配信した『先天性疾患で「糖質」を食べたら死に至る!脂肪酸代謝異常症の患者は3万4000人に1人の割合』の記事に関しまして、タイトル表記、文中の疾患名などに明らかな表記ミスがございました。
編集部で筆者からいただいた原稿を編集する過程で生じたミスでした。
特に「GLUT1欠損症の人はブドウ糖が利用できずがんを発症」は「GLUT1欠損症の人はブドウ糖が利用できずてんかんを発症」の間違いです。関係者にご迷惑をおかけしましたことお詫びするとともに、修正した記事を再度アップさせていただきました。