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【連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第46回】

薬剤師が選択した自殺方法は降圧薬、糖尿病薬、催眠薬の同時大量服用

 

薬剤師による大量薬剤服用による自殺企図の結末

 薬剤師の意図した薬の作用とはどう違っていたのか?

 糖尿病薬による低血糖のもくろみで、アムロジピンの過量服用により、血糖値はむしろ高血糖を呈し、ボグリボースによる低血糖作用が押し隠されたこと、入院後の適切な血糖管理が可能であったことなどにより、血糖値は概ね正常値にて推移した。

 また昇圧剤や大量点滴によって、低血圧状態からの回復も順調だった。さらにゾルピデムは超短時間作用型催眠薬であり、通常量を服用した場合では、作用時間が約2~4時間と短いこと、過量服用した例でも作用時間が延長するが、催眠効果が24時間以上持続する長時間型催眠薬と比較すると、意識レベル低下状態が短時間であることなどが幸いして回復した要因であったと思われる。

 しかしアムロジピン血中濃度は長時間高値を呈し、横紋筋融解症を引き起こして、さらに急性腎不全を併発したため、血液濾過透析などの浄化療法を長時間行うことを余儀なくされた。 

 アムロジピンはわが国で高血圧の治療薬として、代表的な地位を占めている。作用時間が長く、30~50時間であるため、1日1回の服用が可能である。

 主な過量服用での症状は、軽症では嘔吐、頭重感、徐脈を、重症例では昏睡、痙攣発作、低血圧、呼吸障害、腸閉塞などを呈する。本症例のように横紋筋融解症による急性腎不全を併発することもある。血液透析などによる血中アムロジピンの除去は不可能であるため、この症例の透析は、急性腎不全の治療を目的として行われた。

 ボグリボースは、食後高血糖の改善を目的としての治療の際に処方されることが多い。重大な副作用として、低血糖も存在するが、劇症肝炎、腸閉塞などを発症したとの報告も認められる。 

薬剤の副作用を認識して過量服用は慎むべき

 

 現在は医学書やインターネットの掲載記事などで、医療従事者以外でも容易に薬剤の副作用などに関する情報を入手することができる。自殺企図の手段として悪用することも可能であろう。しかし、薬の作用に関しては必ずしも100パーセント予測できるものではなく、複数の薬剤の場合などはさらに慎重な服用が必要となる。薬剤の適正利用について私たち医師と相談するなどして、十分に安全を心がけることが大切であろう。 
(文=横山隆)

*横紋筋融解症:薬物過量摂取によって発症する重篤な副作用のひとつ。全身の筋肉が破壊され、壊死が起こる。筋肉成分であるCPKやミオグロビンが血液中に流れ出て異常高値を呈し、特にミオグロビンが血流によって腎臓に取り込まれ、尿が出にくくなり、ついには急性腎不全に進展する。急性腎不全では、手足のしびれや痛み、全身の脱力感、尿の色が赤褐色を呈する(ミオグロビン尿)を呈する。治療では、血液透析療法が有効である。

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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