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【本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言! 第8回】

『アンナチュラル』のビル火災 現役女性医師が読み解く複数の焼死体の判別法

細部にこだわりが見える燃焼血種とボクサー様姿勢

 今回、9番目のご遺体の後頭部の損傷を外傷と言い切った理由の一つに熱によってできる「燃焼血種」ではないというものがありました。燃焼血種であれば外傷でできる硬膜外血種と違い赤褐色あるいはレンガ色の血の塊になるのですが、ご遺体では暗赤色でした。この血の色で外傷か熱傷によるものかを判断できるということです。

 もう一つ、劇中のご遺体がすべて同じような恰好になっていたのに気が付きましたか? 挙闘家(ボクサー)様姿勢といって、焼けた死体は熱の作用で筋肉が収縮することにより各関節が曲がった形で固定されることを忠実に再現していました。細かいところにこだわりがちりばめられていました。

専攻科による身勝手なプライドと派閥化する医学界

 そして六郎。医学部を目指す若者の理由は様々です。現代は医学部の受験倍率が高くなり、私の時代とは大違いです。

 私は医系家族に生まれました。そして病院をつぶすといわれる三代目。医師になるか映画の翻訳家になるかの選択に迫られ、医学部に行っても英語も映画も堪能できるという事で医学部の道へ。

 そして、大学は父の息のかかった2校の中から偏差値の低い方へ。時に自分のようなものが医師になってよいのか?父の期待のために医学部に進んだだけで、自分は本当に医師になりたいのか?と悩んだ時期もありました。六郎も無言の圧力から医学部には入ったものの、自分の存在価値を見つけるためにもがいていましたね。休学してUDIでバイトするなんて見上げたものです!

 今回の劇中では、医学の世界の狭い感じ、同業者でありながらも専攻科による立ち位置の差、派閥みたいなものが見え隠れしていました。メジャー科、マイナー科なんて言われているほど、専攻科によっての身勝手なプライドも実際感じてしまうことは、臨床の現場では本当にあるのです。

死体にも生きている人間にも帰る場所が必要

「身元不明ご遺体」、「人の帰る場所」という大きなテーマもあった第8回アンナチュラル。「死人を扱う科」で学びたいと言った六郎は、ご遺体をしかるべきところに帰すことの大切さを知った一方で、父親に勘当されてしまいました。家族ではないけれど、お帰りと言ってくれるUDIの仲間のシーンは沁みました。

「生きているうちしか話せないんだよね~」
ミコトのこの一言に、今回はぐっと来てしまいました。

 自分たちの知らないところで、被害者を救い、遺族を救っている人々がいる。そして、皆、生きているうちにしか話せないのです。今日を後悔しないように生きていかないといけないな~、とアンナチュラルを見ながら思ったのです。

 そしてドラマも佳境に入っていきます!日本の法医学の将来の理想形と語ってきたUDI の存在自体も危うくなるのでしょうか?

 そしてそして、口の中の金魚のなぞか解き明かされるのでしょうか?


 『アンナチュラル』のビル火災 現役女性医師が読み解く複数の焼死体の判別法の画像2

井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

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