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【連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第41回】

自殺目的で「硫酸」を飲むと悲惨な結末に! 「アシッド(酸)アタック」は今でも世界中で頻発


               

硫酸による被害は? 治療法は?

 硫酸は、工業用、化学薬品としてのみならず、バッテリー液などとして広く用いられ、一般の人にも容易に入手可能である。最近ではインターネットを利用しての購入が盛んになり、悪用されるケースも増加している。

 障害の程度は、硫酸の濃度、暴露量、皮膚や臓器内での接触時間などに影響される。皮膚への暴露は、軽症の場合では、疼痛、発赤程度で済むが、高濃度の暴露では、瘢痕、壊死を呈し、特に顔面損傷のケースでは、美容上、大きな損傷を認めることになり、身体的、社会的、心理的に長年苦しめられることになる。

 経口摂取した場合では、消化管の損傷による口腔咽頭痛、嚥下困難、嘔吐、腹痛、吐血、下血などを認め、重症例では消化管穿孔、意識障害、ショック、多臓器不全などを呈し、死に至るケースもある。眼に入った場合は、結膜炎、角膜混濁、視野狭窄、最悪のケースでは失明することもある。

 治療法は、硫酸に対する解毒剤は存在しないので、皮膚や眼に暴露した際には汚染した衣服を脱がせ大量の水で洗浄して補液を十分行うこと、経口摂取した際には直ちに口腔内の洗浄し牛乳や水で希釈することなどの対症療法が主となる。催吐は禁忌である。
             
 私たちは、硫酸を用いての犯罪行為、自殺企図は、自他ともに悲惨な結果を招くことを十分認識すべきであろう。 


連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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